塾から帰宅してご飯を食べると眠くなるため、家には帰らずレストランに寄って食事を注文して待っている間の20分でドリル数ページを頑張らせることも。恵美さんは、あの手この手で悠太君の勉強時間が増えるようサポートした。
6年生の9月からは志望校の過去問題集を解き、学校ごとの入試の傾向を確認。試験内容には相性もあり、どの学校ならパスできそうかを親子で考えた。冬休みも「正月特訓」などで塾の毎日。年が明けた1月は、1日も学校に登校せず受験勉強の追い込みをかけた。家庭教師をつける回数や時間を増やして万全を期して入試に挑み、第一志望ではなかったものの、希望する私立中学に合格したのだった。
子どもを産むのなら一人と決めていた
このように中学受験は親子が大きな労を費やすが、中学受験は過熱している。首都圏で最大規模の中学受験向け公開模試を行う「首都圏模試センター」によれば、首都圏での2023年の私立・国立中学受験者数が過去最多の5万2600人となり、受験率も過去最高の17.86%をつけた。地域によっては、公立小学校の6年生の半数以上が受験している。
中学受験の動機はさまざまだが、恵美さんが悠太君の中学受験を決めた背景には、恵美さんが「団塊ジュニア世代」であることが大きく影響している。1971~74年生まれの「団塊ジュニア世代」は人口ボリュームが大きく、恵美さん自身は3人きょうだいで、やりたいことをさせてもらえなかったという。
「子どもを産むなら一人と最初から決めて、産まれた子には習い事や教育に十分にお金をかけてあげようと思っていました。中学・高校生活を楽しく過ごしてほしい。だから一人ひとりに手厚く指導してくれる私立で、人生の財産となる友達を作ってほしいのです」
学生時代、先生から一人ひとりを見てもらえていなかったという思いが、恵美さんには強く残っている。学校では教員の言うことをきかない生徒が教員からビンタされるなど、当時はそう珍しいことではなかった。
恵美さんはスポーツが得意だったが、マンモス校だった中学では入りたかった部活には人数制限があり、入部できなかった。そのうち恵美さんに「公立はダメだ」という気持ちが植え付けられていった。
さらに、悠太君が小学5年生の時に〝事件〟が起こった。悠太君はテストで100点しかとらないにもかかわらず、突然、主要科目全ての成績を下げられた。担任に嫌われたとしか理由は思い当たらず、恵美さん親子にとって〝公立不信〟が増幅。「公立の教員は公務員だから、クビにならない。また同じ目に遭うかもしれない。だから私立に行こう」という思いが、揺るぎないものとなったのだった。
入学した私立中学は、年間の授業料が約130万円。それとは別に課外活動や部活などの費用で月5万円が必要となる。交通費や弁当代を入れると年間200万円の教育費がかかる計算だ。恵美さんは、「お金がかかるのは、これからです。大学は理系で資格が取れたほうがいいので、予備校に通うかもしれない。トータルで、いったいいくらかかるのでしょうか。2000万円? 3000万円?」と戦々恐々としている。
老後が心配で安楽死したい
文部科学省「子供の学習費調査」(2021年度)では、①幼稚園から高校まで全て公立に通った場合で574万円、②幼稚園は私立、小中高校は公立に通った場合で620万円、③幼稚園と高校は私立、小中学校は公立に通った場合で781万円、④全て私立に通った場合で1838万円かかるとしている。
日本政策金融公庫の「教育費負担の実態調査結果」(2021年度)から、大学にかかる費用を見てみたい。まず「入学費用」(受験費用、学校納付金、入学しなかった学校への納付金)は、子ども一人当たり国公立大で67万2000円、私大文系で81万8000円、私大理系で88万8000円となる。さらに「在学費用」(授業料、通学費、教科書代など)がかかり、国公立大で年間103万5000円、私大文系で152万円、私大理系で183万2000円となる。
これらを単純合計しただけでも、卒業までに国公立大は約481万円、私大文系で約690万円、私大理系で約822万円かかるのだ。