2024年11月21日(木)

Wedge REPORT

2023年10月23日

 たとえば悠太君が私立の中高一貫校から私大理系に進めば、中学以降に約2000万円かかる見込みだ。これに中学受験のために費やした500万円を加えれば、約2500万円の教育費をかけることになる。そして、大学受験の予備校に通えばまたプラスされ、3000万円かかる可能性もある。

 夫の年収は1000万円をゆうに超えるが所得税が30%引かれるため、その分の手取りが減る。自営業の恵美さんの収入は家計の補填に充て、夫のボーナスを子どもの学費に充てている。大学受験で浪人しなければ、子どもの卒業と同時に夫が定年退職する予定だという。

 「教育にお金がかかりすぎて、貯金もままならない状態です。夫が定年退職した後、自宅の固定資産税が払えるのかと心配です。これで、老後に暮らしていけるのでしょうか。もし自分が介護を受けるようになるくらいなら、安楽死したい。長生きしたくないです」

公教育の質の向上は急務

 中学受験をしなかったとしても、日本の場合は教育費を家庭で負担する割合が大きい。日本私立大学団体連合会がまとめた「2023年度私立大学関係政府予算要望データ編」を見てみると、大学生の教育費の公的負担率は経済協力開発機構(OECD)平均で66.2%だが、日本は約半分の32.1%でしかない。大学生についての政府支出に占める公的教育費の割合を見ても、OECD平均は2.9%であるのに対して日本は1.6%しかない。

 これでは恵美さんのように、「子どもを産むなら一人」と決めるか、「子どもはもたない」という選択をする人が増えても不思議ではない。ましてや子育て真っ最中の年齢層は、2000年以降の就職氷河期世代が含まれ、自身の収入が不安定なことも多い。

 2022年12月に日本財団が17~19歳の男女1000人に行った「18歳意識調査」(「第52回-価値観・ライフデザイン-」報告書)では、将来結婚を「したい」と回答した人は男女とも4割を超えるが、実際に将来結婚を「必ずすると思う」という回答は、男性で2割弱、女性は1割強にとどまった。「将来結婚しないと思う理由」として、22.4%が「経済的に難しいと思うから」と答えている。このまま中学受験が過熱し続ければ、ますます結婚や出産が遠のくのではないだろうか。

 10月20日から秋の臨時国会が始まったが、少子化と教育費問題は切っても切り離せない国会で議論すべきテーマだ。恵美さんのように公教育への不信感から私立を選び、個々の教育費負担が増して少子化になるのでは、本末転倒だ。教育財政の支出を増やし、公教育の質を向上させる。それが格差ない社会を作り、子どもたちが真に自分の生き方を選択できる土台を作るのではないだろうか。

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