2024年5月19日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年10月30日

 李氏で印象深いのは、20年5月に「中国には月収1000元(約2万円)の人がまだ6億人いる」と発言したことだ。中国はまだ貧困から脱していないことを指摘するものだったが、これが「絶対的貧困を撲滅し『小康社会』(少しゆとりのある社会)を実現した」と発表していた習氏の面子をつぶしたのでは、とも言われた。今年3月、引退する際は、「人在幹、天在看、蒼天有眼(人がやっていることをお天道様は見ている)」という意味深な発言を残した。

「人民のよき総理」と呼ばれることの意味

 引退からわずか半年--。中国では、大物政治家には、一般市民の想像もつかないほど膨大な医療費がつぎ込まれ、健康管理が行われているはずだが、心臓発作という予期せぬ急病で亡くなってしまった。長年の激務がたたり、一見、元気そうに見えても、実は身体はボロボロだったのではないか、強いストレスが影響したのではないか、との声もあるが、真相はわからない。

 皮肉にも、あまりにも優秀すぎたゆえに、トップに上り詰めることができなかったのかもしれないが、人々が李氏のことを「人民の(人民にとっての)よき総理」とあえて呼ぶのは、何か別の意味が込められているのではないか、と感じざるを得ない。

   
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