これらが、アボットの十分な成功を約束しているというわけではない。キャンベラとジャカルタの関係は、難民問題などをめぐり、引き続きぎくしゃくしており、これがオーストラリア人の関心の大部分を占めてしまうおそれがある。アボット新政権は、ASEAN主導の多国間外交のコツも学ばなければならない。また、シンガポールのような巧妙な小国の例に倣って、民主的アジェンダをさらに進めるための、忍耐と気質を発展させる必要があろう、と論じています。
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アボットの選出は、今後の日本のアジア太平洋政策にとって、インドなどと並んで、信頼すべきパートナーが生まれる可能性があることを意味します。日米同盟は日本外交の基軸であり、その信頼関係には今後とも揺るぎは無いと期待されますが、オバマ大統領、ケリー国務長官は、かつてのロン・ヤス時代、小泉・ブッシュ時代のような関係を結べるキャラクターではなく、イデオロギー的にもリベラルです。また、現状では、朴槿恵や習近平と相互信頼関係を作ることは困難です。
アジア太平洋の大国では、安倍総理とインドのシン首相との間には、首脳間の信頼関係があると言って良いようです。そこに、同盟重視、民主主義の価値重視、国防費増額といった外交安保政策を目指す、正統派保守主義の考えを持った、豪州の指導者が出現すれば、日本のアジア太平洋外交には、インドと豪州の二つの柱が出来る可能性があります。
しかし、この論説も示すように、豪州内での外交安保政策のエリートたちの間では、対中観をめぐる分裂が依然として続いています。その結果、豪州の外交安保政策は、中国に真剣に向き合うことを避けるようになってしまっています。ギラード前政権は、左派的体質と相俟って、その傾向が特に目立ちました。さらに、豪州国民の間でも同盟重視が多数派を占めてはいません。例えば、ロウィー研究所が今年初めに行った世論調査によれば、米国のアジアでの軍事行動に対して、同盟関係に基づいて行動することに、38%しか支持がありません。日豪関係の深化には、慎重なアプローチが必要となります。
アボット新首相は、ギラード政権したの国防白書を見直す方針を示しています。それが、実現するのか、適切な内容に改められるのかが、アボット外交の試金石の一つとなるでしょう。
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