2024年6月18日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年11月14日

 バイデン大統領は年齢故に嘲笑される向きはあるが、ホワイトハウスにこのような思慮深く経験を積んだ指導力を欠いた状態でこの中東の危機が展開していたらどうなっていたか。世界は既に不確実で危険であるが、更に不確実で危険な場所となっていただろう。

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 このフィッシャーの論旨には良く分からないところもあるが、論説の表題が示しているように、悲しいかな、われわれの世界は、いまや戦争状態だといっているようである。

 ロシアによるウクライナ侵攻は最初のドミノだった。ハマスのイスラエル攻撃によって地域戦争の連鎖を見るに至った。その背後にイランの悪行が疑われる。南シナ海と台湾海峡では米中間の緊張が高まっている。

 フィッシャーは、これら個々の動きに全体として既存の秩序の破壊を読み取り、新たな秩序への移行には歴史的に暴力を伴ったことを指摘して、戦争のリスクが拡散する状態にあると述べている。既存の秩序を破壊することを意に介さない狼藉者がいることは事実であり、秩序のタガが弛緩していることも事実と思われ、現状を戦争状態というのであれば、一つの表現方法ではあろう。

 フィッシャーは特にハマスのイスラエル攻撃の背後にイランの影を見ている。イランとは欧米諸国が苦労して核合意を成立させたが、この合意によって国際社会に一定の正統な地歩を回復したイランの国際的な行動―特に中東における行動―に変化が現れるかを見極める暇もないまま、トランプ大統領が核合意を離脱し、イランを再び野に放った罪は大きいといわざるを得まい。

維持されるべき既存の秩序

 フィッシャーは、現在の状況が第一次世界大戦のように坂を滑り落ちて大きな戦争に至ることを心配しているようであり、それをバイデン政権の思慮深い行動が辛うじて防いでいるようなことを書いている。その事実は否定出来ない。

 しかし、既存の秩序を維持しようとする意欲は、西側に関する限り、減退している事実はないと思われる。バイデン政権のリーダーシップがあってのことであるが、ロシアのウクライナ侵略に北大西洋条約機構(NATO)は結束して対抗している。

 中国の挑発的行動は継続・強化される傾向にあるが、米英豪3カ国の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の新設、日米豪印で作る協力枠組み「クアッド」の強化を含めアジアにおける米国を軸とする同盟関係は強化されて来ている。既存の秩序は基本的に健全であり、維持されるべきものである。新たな秩序なるものの輪郭が明確である訳でもない。

 大きな心配は、米国に国際秩序を守る意欲を失わしめるような米国の内政動向、特に、来年の大統領選挙の帰趨である。

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