ヨシュカ・フィッシャー元ドイツ外相が、Project Syndicateのサイトに10月27日付けで掲載された論説‘World of Warfare’で、世界はロシアのウクライナ侵略やハマスのイスラエル攻撃など戦争のリスクが拡散する危険に直面し戦争状態といえる、と警鐘を鳴らしている。
プーチン大統領のウクライナ侵略は最初のドミノに過ぎなかった。今や、ハマスがガザからイスラエルに残忍なテロ攻撃を開始した。その目的が単にイスラエルの民間人に対する非情な残虐行為の演出にあったのではないことは明らかである。
それはホロコーストを再現することによりユダヤ人のトラウマを蘇らせることを意図したものだった。もちろん、ハマスだけがこの目標を推進している訳ではない。攻撃の背後にはイランの存在を疑わざるをえない。
10月7日の攻撃は中東を大戦争の瀬戸際に追いやった。イスラエルの生存がかかり、欧米は不可避的に引きずり込まれた。
イスラエルには、この戦争がより多数の民間人を犠牲とし双方の間の憎悪を深めるとはいえ、抑止を回復するために軍事的に報復する以外にほぼ選択肢はない。10月7日の作戦を計画した人間がそれを当て込んでいたことに疑いはない。
ウクライナとガザの戦争の類似性は、双方とも既存の国民国家の生き残りをかけた戦闘だということだ。同様に重要なことは、双方ともある種の新たな世界秩序の出現を目撃しつつあることにある。西側はイスラエルを確固として支持しているが、ロシアや中国のような権威主義の諸国やグローバル・サウスは、反対の側についている。
西側はこの対立の構図を受け入れる訳にはいかない。このような地政学的な分極化は誰のためにもならない。この潮流を逆転させるには大胆な外交努力を必要とする。新たな世界秩序の枢要な一部としてグローバル・サウスは認知とテーブルの席を要求している。
ウクライナと中東の戦争に加えて、南シナ海あるいは台湾海峡において軍事衝突の脅威が高まりつつある。これは米国と中国の二つの超大国を直接巻き込むこととなろう。
歴史的に、世界的な勢力均衡を変えたり、新たに国際秩序をたてる時には暴力が伴う。1945年以降のパックス・アメリカーナの時代はかつてないほど脆弱になっている。
それがそれ自体で潰れるのを待つのではなく、これに挑戦する諸国はその弱みに付け込もうとしている。そして、現状を維持しようという意欲は減退した。
1914年には色々な出来事が独り歩きをして遂に世界戦争に至った。われわれは今日の混乱の中に秩序を欠いた世界を垣間見つつある。