小誌取材班が訪れた金曜日の午前中も、施設内はさまざまな用途で利用するお母さんや子ども、スタッフたちの声でにぎわっていた。
5カ月の子どもを連れていたAさんは「ここはおもちゃなどもそろっていますし、上の子が通う幼稚園も近いので、上の子を送ってからはほぼ毎日、ここに来ています」と言う。地元が岡山市というBさんも5カ月の子どもと通う常連だ。「結婚して奈義町に来た当初は、知り合いもいませんでしたが、ここですぐにママ友ができました。スタッフさんとも年齢が近いので育児の相談もしやすいです」(Bさん)。
「実はここのスタッフは、元々は利用者だった人が少なくないんです」
こう教えてくれたのは07年の設置当初からこの施設に携わり、3人の子どもを持つスタッフの貝原博子さん。自身も子どもが幼稚園に上がったタイミングでスタッフになり、今は〝先輩ママ〟としてサポートに回る日々を過ごしている。「お母さんたちがその時の状況に合わせて、出たり入ったりしていて、持ちつ持たれつの関係性が自然にできています。無理のない範囲で周りを頼りながら子育てができるので、『もう一人産んでも大丈夫、なんとかなる』と思えるんですよね」と笑顔で話す。
チャイルドホームの利用者はお母さんだけに限らない。今年4月、奈義町産業振興課に転職し、家族でこの町に移住した榎谷仁志さんもその一人だ。前職時代の転勤で、岡山の県北に赴任した際、子育てのしやすい奈義町に魅せられ、移住を決断。現在は、役場から自転車で10分のところに住んでいる。
「『たけの子』でジャガイモ掘りや川遊びなど、いろいろな経験をさせてもらえて、年会費もたった100円です。妻もこうしたコミュニティーの中で、この町に自然となじむことができています。何よりも子どもが楽しそうに遊んでいる姿を見られるのは、親としてうれしいです」(榎谷さん)
〝奇跡〟というより〝必然〟
奈義町の高い出生率の秘密
奈義町には、子育ての合間など、「ちょっとしたスキマ時間に働きたい」というお母さんのニーズに応える施設もある。16年に運営を開始した「奈義しごとえん」では、清掃や書類の封入作業、スマホ教室のスタッフなど、「ちょっと手伝ってほしい仕事」を町の依頼者から請け負い、登録者とのマッチングを行っている。
登録をしている子育て中のお母さんは「いくらかわいいとはいえ、子どもだけとコミュニケーションをとるのはつらい時もあります。ここで大人と話すだけでもストレスの解消になっています」と言い、子育て中に社会とつながることの大切さを実感する。代表理事の桑村由和さんはこうした施設の活用について「ここで働くのも、預けるのも、家で育てるのも、それぞれの希望に合わせて選べばいいと思っています。ただ、いずれにせよ社会的に孤立しないことが重要なんです」と話す。
奈義町の高い出生率は、こうしたさまざまな子育て支援策を20年以上にわたって町全体でアップデートし続けてきた努力の賜物だ。メディアは〝奇跡〟と礼賛するが、むしろ〝必然〟というのが正しいのではないか。こうした支援策を利用した町民が無理のない子育てを実現し、日々の交流の中で「なんとかなる」という空気感と安心感が広がる。そしてそれらが新しい命の誕生への後押しとなる─。奈義町にはこうした目に見えない好循環があった。
奈義町以外にも成功例はある。
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