2024年11月20日(水)

Wedge2023年8月号特集(少子化対策 )

2023年11月12日

人口減少社会は日本だけでなく、諸外国にとっても喫緊の課題だ。フランスと中国の〝現在地〟を垣間見ながら、日本への示唆を読み解こう。「Wedge」2023年8月号に掲載されている「日本の少子化対策  異次元よりも「本音」の議論を」記事の内容を一部、限定公開いたします。

 岡山県勝田郡奈義町は、鳥取県との県境にそびえる那岐山のふもと、人口約5700人の小さな町である。

(イラストレーション・藤田 翔)

 だが、この町の合計特殊出生率は、2.95(2019年)。メディアからは〝奇跡の町〟とも称され、今年2月には岸田文雄首相も視察に訪れた。

 なぜ、これほど高い出生率が実現できるのか。小誌取材班はその理由を確かめに6月下旬、奈義町を訪れた。

 そこには、20年以上かけて、行政と町民が一体となり、試行錯誤や創意工夫を重ねながら、独自の子育て支援を広げていった歴史があり、町全体が自然と「子どもが欲しい」と思える空気感と安心感に包まれていた──。

 「奈義町の存続のためには、『人口問題』は最大の課題であり、現在の人口を維持することが目標でした」

 奈義町情報企画課の荒井祥男さんはこう語る。02年、平成の大合併が各地で進む中、同町は住民投票の結果、「単独町制」を選んだ。だが、この町が抱える高齢化と過疎化による人口減少は町を存続させるには死活問題だった。

 こうした良質な危機感から、同町では独自の少子化対策として、経済面や住宅面などの支援を進め、05年には1.41だった合計特殊出生率が19年には、1.41まで高まった。

 「奈義町では子育て世代だけでなく、高齢者も一緒にこの課題を考え、12年には『奈義町子育て応援宣言』を議会採択しました。財源を確保するため、議会の議員定数を14から10に減らすなどして、子育て支援策に回してきました。『町が元気であるためには子どもがいることは大切』というのが町民全体の認識なんです」(荒井さん)。

 奈義町には現在、24もの子育て支援策がある。だが、出生率の回復は単に子育て支援のメニューの多さだけに起因するものではないことを「なぎチャイルドホーム」で垣間見た。

 07年に運営を開始した同施設では誰でもいつでも利用できるスペース「ちゅくしんぼ」が開放されている。また、2歳半から就園前の幼児と保護者を対象にした自主保育「たけの子」が1世帯年会費100円で利用できるほか、子育て援助を希望する人(おねがい会員)が支援できる人(まかせて会員)に一時預かりをお願いできる「すまいる」というサービスもある。利用料は子ども1人あたり1時間わずか300円だ。美容院や通院のために数時間だけ預かってほしい時や、子どもを少し遊ばせたい時など、お母さんたちが保育園と使い分けをしながら柔軟に選択して利用できる体制が整っている。


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