北極海をめぐるプレーヤー・中国の顕著な動き
だが、諸外国がロシアの動きを容認するわけはなく、反発も多い。特に反発しているのがデンマークやカナダであり、それぞれ、北極海の海底は自国の沿岸と地質学的に地続きだと主張しており、両国共に、CLCSに科学的根拠を持って申請をすべく、準備を進めている。加えて、ロシアとカナダは、お互いに同地域での存在感を高めるため、自国軍も利用して、軍事的な示威行動を度々行なってきた。
北極海をめぐるプレーヤーは沿岸国にとどまらない。北極には、領有権主張を凍結した「南極条約」のような条約が未だ存在しないため、世界各国がより大きな権益を求めて争いを熾烈化させる余地が大いにあるのである。
日本も資源獲得に強い関心を持っているし、何より目立つのが中国の動きだ。中国は1990年代から北極海への関心を高め、北極海圏内に領土がないにもかかわらず、「北極圏近郊諸国」の地位を主張し、同地域開発の中心的存在である前述の「北極評議会」に長年非公式に参加し、ついに今年5月に常任オブザーバー入りを果たしたのだ。
ロシアのエスコートを受けずに単独で帰還
さらに中国は、同地の資源のみならず、北極海航路にも既に触手を伸ばしている。中国は、ロシア沖の北極海を横断して欧州に到達する新たな商船ルートの開拓を進め、昨年8月にはウクライナから購入した砕氷船「雪龍」で北極海での試験航行を成功させた。しかも、この際、一般原則通りロシアの砕氷船のエスコートを受け、アイスランドに到達したものの、帰路は北極点付近を通過し、ロシアのエスコートを受けずに単独で帰還したのである。このことは、中国の砕氷船が独自で砕氷し、航行できたことを意味する。
中国のその行動については、色々な憶測がなされているが、ロシアの影響を受けない最短ルートを探しているという説、海底資源を探査しようとしているのではないかという説、また北極海は冷戦時代に潜水艦の活動が顕著だった地域でもあり、中国が軍事目的で北極海の地質や水温などのデータ収集をしようとしているという説などがあるが、どれも北極海に利権を求める諸国にとっては脅威だといえる。
さらに今年の8月~9月にかけて、初の北極海航行を成功させた。航行したのは、国有海運大手・中国遠洋運輸集団(コスコグループ)傘下の中遠航運(広東省)が運航する多目的貨物船「永盛」(総積載量1万9461トン、全長160メートル)である。北極海ルートは、従来のスエズ運河経由の航路に比して、航行日数を約2週間も短縮できるというメリットがあり(ただし、前述の通り、現状では夏場を中心とした約4カ月しか航行はできない)、中国サイドは、中国が目指す海洋国家建設にとっても重要な意味を持つとして高く評価している。2020年までには中国商船の5~15%が北極海航路を利用するようになるという試算もあるほどだ。