2024年11月22日(金)

勝負の分かれ目

2023年12月2日

「世界一を狙える球団」

 さて、その大谷だが来季以降、一体どの球団に身を委ねる決断を下すのだろうか。エンゼルスに残留する可能性も1ミリもないとは断言できないが、かつて大谷自身が「もっとヒリヒリした9月を過ごしたい」と口にしたようにポストシーズン進出争いから長年遠ざかっている「低迷球団」にあえて残るという選択に踏み切ることはやはり考えづらい。

 移籍先の最有力候補として目されているのはロサンゼルス・ドジャースだ。1883年創設でMLB屈指の名門球団であり、ワールドシリーズ優勝7回、リーグ優勝24回、地区優勝21回、ワイルドカードによるポストシーズン進出も3回を誇る強豪中の強豪。今季も2年連続で地区優勝を決め、それと同時に2013年から実に11年連続でプレーオフ進出を果たした。近年ではワールドシリーズ優勝もつい3年前の2020年に決めている。大谷が胸の内で移籍を決める際に条件として最も重要視しているとされている「世界一を狙える球団」には、極めて合致しているチームだろう。

 ドジャースの球団オーナーはマーク・ウォルター氏。ドジャースだけでなくNBAロサンゼルス・スパークスの筆頭オーナー、そしてサッカープレミアリーグのチェルシーF.C.の共同経営者でもあり、その「素顔」はニューヨークに本社を構える世界的投資・アドバイザリー金融サービス企業のCEOだ。従って資金力はMLBでも屈指。仮にぜいたく税(ラグジュアリー・タックス)を課せられることを計算に入れたとしても、ドジャースにとって大谷獲得資金を用意することは造作もないイージープロジェクトと言っていい。

 ドジャース側は大谷を獲得する準備もチーム編成上で鮮明にしており、今オフでFAとなった通算210勝で生え抜きレジェンド左腕クレイトン・カーショー投手と、通算315本塁打を誇る指名打者のJ・D・マルティネスにクオリファイング・オファー(QO)を提示しなかった。球団側がQOで条件提示を行わないということは相手に対して契約延長の意思表示を示さないことの表れであり、その時点においては事実上の〝戦力外〟とする意味合いになる。

 ドジャースは長年にわたって絶対的存在としてエースを務めてきたカーショーと、DHのマルチネスとの残留交渉を差し置き、投打のツー・ウェイ・プレーヤー・大谷との契約締結を最優先させたという方向性に舵を切った――。そのように分析するMLBの有識者が大半だ。 

 実を言えば、そのカーショーと大谷との間には「因縁がある」ともウワサされている。大谷が北海道日本ハムファイターズから2017年オフにポスティングシステムを使ってMLB移籍を表明し、獲得に名乗りを上げた複数のメジャー球団と面談した際、その中でドジャース側の「リクルーターメンバー」として加わっていたカーショーとも対面。しかし大谷は結果的にドジャースを選ばずエンゼルス入団を決めたため、当時のカーショーが「彼には最初から(当時は)DH制のないナ・リーグのチームを選ぶ意思などなかった」と強い不快感をメディアに示したことがあった。

 ただ、そのカーショーは左肩手術を終えたばかり。来季も現役続行の意思は示しているものの本格復帰は来年夏頃になるとみられ、現在35歳という年齢面からも他球団が率先して獲得に動く可能性は低いとされている。ドジャースが結局のところ残留させるのではないかと予想する声もあるが、そうなると懸念されるのは大谷との〝しがらみ〟だ。だが「カーショーは『最初からオオタニに対して何のわだかまりもない』と言い切っている」と指摘するMLB関係者は数多くいることから、もし2人がチームメートになったとしても大きな問題が起こることは、まずないとみていい。

 そしてロサンゼルスは大谷が今、拠点としているアナハイムから目と鼻の先。エンゼルスが球団名に「ロサンゼルス」の地名を付けている通り、同じエリアだ。基本的に引っ越しをする必要もなく、生活拠点も変えずに済む。ここまで慣れ親しんできた西海岸の温暖な環境だ。今のところ他の日本人メジャーリーガーも不在で、どちらかといえば気配りしがちな大谷が神経をすり減らすこともない。

 しかしながら来季のドジャースには「本当に12年連続ポストシーズン進出を狙えるのか」という疑念がまとわりつくのも事実。それというのも今年9月に家庭内暴力騒動を引き起こし、逮捕され、MLBから調査終了まで「休職」扱いとされているフリオ・ウリアス投手の去就が不透明なままなのも、その理由の一つだ。今オフにはFAとなるはずだったが、ドジャースは今季11勝も含め2年連続で2桁勝利を飾っていた球界屈指の左腕との再契約を視野に入れていた。

 加えて今季13勝だった前出のカーショーもチームを離れることになれば、単純に24勝分が「ロストポイント」となってしまうことになる。大谷は来季も投げられないだけに、その埋め合わせをすることは容易ではない。そうなると来季のドジャースには必ずしも「常勝軍団」の称号を付けられる補償はどこにもなく、果たして本当に大谷が自らの移籍先として選ぶのだろうかとの疑問も浮かび上がってくる。

 2024年の大谷はドジャーブルーのユニホームを着てプレーしているのか。それともロサンゼルスではない、全く異なる場所をホームタウンとするチームで心機一転を図るのか。いずれにせよ世のビジネスパーソンも、おそらく年内に「答え」が出るであろうスーパースター・大谷翔平の決断に興味津々に違いない。

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