2023年8月、国立科学博物館(以下、科博)は、約500万点に及ぶ収蔵コレクションの整備費などを調達するため、クラウドファンディング(以下、CF)を開始し、目標額1億円を公開後9時間で達成した。結果的にプロジェクト終了(11月5日)までに約9億円が集まり、支援者数は約5.7人万に上った。
なぜこんなにも集まったのか。もともと科博ではユニークで豊富な会員制度を持ち、定期的な支援者コミュニケーションによってな固定ファンが存在していたことも大きかった。その上で、幅広く興味関心を持ってもらうための仕掛けが考案されたのである。
CFのプロジェクトページには「リターン」と呼ばれる寄付への返礼品には5000円から1000万円(法人向け)まで多数のコースが用意されたが、グッズや図鑑のほか、バックヤードツアーなどの「体験型プログラム」が人気を博している。
プロジェクト開始当日に「記者会見」を実施して広く世間に協力を呼びかけたことも大きい。しかも記者会見前に、テレビ各局から個別の詳細取材を受け入れ、放送するタイミングで目標額に達したため、その広がりを受けて、ワイドショーなどがその後も取材を行い、世の中に広く知れ渡っていった。
今回のCFはコロナ禍で入場収入が数年にわたって減少したことが契機だったが、プロジェクト成功の背景にあるのは、250万人にも及ぶ科博の年間入場者数だ。その人たちが潜在的な寄付予備軍となっていて、「この機会に」と立ち上がったのだ。
科博の職員たちの努力があったことはもちろんだが、もう一つ注目したいのが、黒子の役目を果たした「ファンドレイザー」と呼ばれる存在だ。彼らはさまざまなCFや大学の寄付金集めなどの舞台裏で活躍している。寄付やファンドレイジングに関する制度や設計を担う日本ファンドレイジング協会が資格認定する「認定/准認定ファンドレイザー」は約1600人にも及んでいる。彼らは、社会課題を解決するNPOや社会起業家たちと社会貢献に関心のある人々を繋ぎ合わせる役割を担っている。
例えば、名古屋市にある金城学院大学人間科学部コミュニティ福祉学科では2020年からファンドレイジングを学ぶ授業を提供して社会課題に関わりを持つ学生たちが多様な分野で活躍することを期待している。
単なる寄付集めではない
「ファンドレイジング」
「ファンドレイジング(Fundraising)」とは、単なる寄付集めではなく、団体の活動に必要な会員や寄付、補助金、助成金などのさまざまな資金を獲得するための取り組みの総称である。具体的には多彩な支援メニューづくりやCFのようなキャンペーン企画、広報広告、企業連携などの営業活動、個人に応じた対応といった施策の効果が最大化するように戦略を組み、その進捗を管理していく。
CFのプロジェクトは1~2カ月しかなく、それだけでは団体と資金を提供する個人や企業を十分に結びつけることができないため、段階的に関わりが深まることを目指して、接点を持つ機会を設けたり、寄付の成果や状況を伝えたりすることを計画していく。
ファンドレイジングのポイントは「お金をください」とお願いするだけでなく、呼びかけの際、社会的な課題を知ってもらうことにある。社会的課題に共感してもらい、その解決策に納得してもらうことで、寄付やボランティアといった行動や参加が促されていく。寄付者は寄付したら終わりではなく、その後もそのプロジェクトの進展に関心を持ち続けていく。
「自分事」にしている寄付者は、ロイヤリティーが高いため、頼まなくても自発的に良い取り組みとして周囲に発信したりする。科博の寄付が加速的に集まったことも、大規模災害時に爆発的な情報の拡散が起こることも、こうした働きの結果だ。