アイデンティティと民主主義の信念の間で
一方で現在のユダヤ系米国人はほとんどが民主党支持のリベラルで、反トランプという立場である。そして今回の戦争、イスラエルによる民間人の虐殺風景を見てショックを受け、パレスチナ人の人権を守れと政府に訴えている。こうしたデモに参加する若いユダヤ系米国人からは「自分たちがイスラエルに全面的に賛同していると思われたくない。ハマスのしたことは間違っているが、イスラエルはもっと間違っている」という声や、「ユダヤ人に対する偏見、差別がエスカレートする可能性もある」と心配する声もある。
ユダヤ系住民に対するヘイトクライムは米国では度々起こり、銃乱射事件が起きたこともある。米国で生まれ育った自分たちがなぜ差別の対象になるのか、そこにはイスラエルの強権的な姿勢も関係するのではないかという疑問も当然ながら生まれる。
ただし米国内で起きた大掛かりなテロ事件は、9・11も含めてその多くがアラブ系団体によるものだ。欧州でも同じ傾向があり、イスラエルの「ハマスを壊滅させる」という動きに賛同する声がないわけでもない。ハマスを壊滅させても次々に同じような団体は生まれるだろうし、抜本的な解決にはならないが、バイデン政権にとっての大きな言い訳にはなっている。
しかし、バイデン大統領を虐殺者と呼び、選挙への影響を訴えても、対立候補のトランプ氏が当選すれば、今よりも露骨な親イスラエル路線になることは明らかだ。民主共和ともにより若い候補者が現れない中で、若いユダヤ系米国人は自らのアイデンティティと民主主義の信念が世界の政治情勢の中で揺れ動く不安に悩まされている。