2024年11月23日(土)

Wedge2023年12月号特集(海事産業は日本の生命線)

2023年11月25日

「Wedge」2023年12月号に掲載されている特集「海事産業は日本の生命線 「Sea Power」を 国家戦略に」内の記事を一部、限定公開いたします。

 私の著書である『コンテナ物語』(日経BP)、『物流の世界史』(ダイヤモンド社)の中で、世界の物流に大きな変化をもたらした人物としてマルコム・マクリーンについて解説している。コンテナと大型のコンテナ船を用いることにより、物流の質量は飛躍的に改善した。

ニューヨーク・マンハッタンを背景に運航するコンテナ船GARY HERSHORN(RECEP-BG/GETTYIMAGES)

 しかし、よく誤解されるのだが、マクリーンは物流の歴史の中で大きな業績を残した人物ではあるが、彼はコンテナを発明したわけではない。彼が成し遂げたのは、それまでばらばらだったトラック、船舶、鉄道、クレーンその他の荷揚げ作業などを一つにまとめるシステムを作り上げた、ということだ。

 それまでの米国の規制は荷物をその内容によって送料を決定する、というものだった。コンテナの中身もいちいち取り出して申告する必要があり、極めて非効率だった。マクリーンはロビー活動などを通し、より効率的な輸送システムが物流業界全体に利益をもたらすと主張し、この規制を撤廃させることに成功した。コンテナはコンテナごとの課金制度となったのだ。

 またマクリーンが海上と陸上輸送をまとめるシステムを作り上げたことで、1960年代から70年代にかけて、「ランドブリッジ」と呼ばれる新しい手法も生まれた。例えば日本などのアジアから北米に荷物を送る場合、直接海上で輸送するよりも、一度米西海岸で荷揚げし、その後陸路で米国を横断、東海岸から欧州へ輸送する方が安上がりである、と証明された。

 これだけではなく、マクリーンがシステムを作り出したことで無数のイノベーションも生まれた。例えばキース・タントリンガーという技師は、一人でトラックのシャシーを改良し、トラックの荷台そのものを、コンテナを積載する仕様に組み替えた。それまでは荷台の上にコンテナをくくりつけるような形で積み下ろしに時間がかかっていたが、新たな方式ではクレーンがスムーズに作業できるようになった。


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