2024年12月22日(日)

Wedge2023年12月号特集(海事産業は日本の生命線)

2023年11月21日

 濃紺の制服の両袖には、黄金の線が4本刺繍されている。最も袖口近くにある太い線が「船長」の証しだ。

松下尚美(商船三井 船長) 東京都世田谷区出身。東京商船大学(現・東京海洋大学)卒。内航船員を経て2006年に商船三井に入社。23年6月、日本の総合海運会社で初めて女性「船長」として乗船。プライベートでは2児の母。

 商船三井の松下尚美さんは今年6月、日本の総合海運会社で初めて女性船長として外航船に乗船し、約3カ月で地球半周分に及ぶ約2万4000キロメートルを航海した。「多くの貨物を積み、乗組員と共に長さ数百メートル、重さ数万トンもの船を自分の判断で動かす。その責任は大きく、自分の努力を素直に認めてあげられるくらい達成感がある仕事」と胸を張る。

 生まれも育ちも東京都だが、幼少期から自然に親しむ機会に恵まれた。ガールスカウト活動をきっかけに2泊3日の船旅に出た時、そこで働く船員たちに目を奪われた。「さまざまな国籍の人と一緒に生活しながら働く姿は、楽しそうでしたし、航海を通じて自分の世界が広がっていくことに魅力を感じました」。中学生の時には船員になることを決意し、迷わず東京商船大学(現・東京海洋大学)に入学した。

 ところが、就職活動では海運業界への就職はかなわなかった。「船員はまだ男性中心の職業で、女性に平等に門戸が開かれているとは言い難かったです。でも、不思議とネガティブにはならず、時代は変わるだろうとも思っていました」と当時を振り返る。とにかく船に乗ることが好きで、内航船や近海船を運航する会社に勤めたり、派遣船員で航海士としての知識と技術を地道に磨き続ける日々を過ごした。

 転機は2006年。女性船員が増え始めていたこの年に、縁あって商船三井に入社。確かに時代は変わってきていた。さらに現在、この機運は加速している。「海外では女性の船員を半分にするという目標を掲げる会社も出てきました。個人的には、船に女性がいると空気が明るくなり、口に出しての意思疎通が増えて風通しが良くなると思っています。同じメンバーと長期間一緒に乗船するので、船の雰囲気は大切です」。


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