Wedge REPORT

2020年10月22日

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(Igor Korchak/gettyimages)

 島国である日本にとって欠かせない「海運」。資源のない国だけに船がなければ石油などの資源を輸入することもできない。そして、船がなければ国内で作った自動車や各種機器を輸出して外貨を稼ぐこともできない。当たり前のことではあるが、〝灯台下暗し〟で、海運が足元から崩れる危機にあるのだ。

 特に問題なのは、国内海運の「内航」だ。外国との輸出入を行う「外航」海運では、外国人船員を採用することができるが、内航では基本的に日本国籍者でないと船員になることができず、船も日本船籍に限られる。

 少し話が脱線するが、「内航」が日本人に限られているのは、雇用問題だけではなく、危機管理の一環でもあるからだ。というのも、日本国内で災害などが起きた場合、日本国籍の船であれば海上運送法に基づいて「航海命令」を出して物資の輸送を命じることができ、そのときの船員確保という観点もある。

 その内航海運では、船員がこの40年間で7.1万人から2.8万人に減少していることに加え、過半数が50歳以上になっている。船員養成学校などの業界の努力によって船員の輩出も増加傾向にあるが、一方で定着率が良くない。

3カ月船で働いて1カ月休む

 実は、陸の仕事に比べると原因となっているのが、その特殊な働き方だ。「3カ月船で働いて1カ月休む」というスタイルが一般的なのだ。荷物の揚げ下げの際など、全く陸に上がれないというわけではないが、時間は限られている。そして狭い空間で少人数の人と過ごすので、好むと好まざるを得ず、人間関係は濃いものになる。

 最近では、長期休みを利用して副業に励むといった人も出ているようだが、この勤務形態や人間関係などが、船員になることが敬遠される理由となっている。

 それでも「この業界はなくてはならない産業」と、あえて飛び込んだのが、石川和弥さん(32)だ。前職は三井物産という大企業に勤務していたが、ドイツ駐在後に、内航海運の仕事に携わったことが転機となった。

 「商社の仕事も大好きだった」という石川さんだが、内航の仕事を知れば知るほど、「なんとかせねば」という気持ちも高まった。船員の世界は言わば職人の世界で、操船部門にしても機関部門にして、先輩が上げ膳据え膳で仕事を教えてくれるわけではない。石川さんが驚嘆したのは、設備の音を聞いて正常か否かの判断をする様子で、「まさに職人芸でした」と振り返る。一方で、そのような仕事のスタイルに今の若者がついていくのは容易ではない。

 「どの課題に残りの人生を使うべきか?」と、石川さんは自問自答したという。その結果、内航海運業界の情報発信、課題解決をするべくアイ・テックマリン(福岡市)を立ち上げた。

 まず、取り組んだのが情報発信だ。申し訳ないが、「内航海運」という仕事はマイナーだ。記者も高校まで広島市で育ち、幼いことから瀬戸内海で海と親しみ、当たり前のように船が行き来するのを見ていた。しかし、あの船にどんな人が乗っているのか? どんなことをしているのか? 想像がつかなかった。そに比べて、バイクに乗って郵便配達をする人、トラックで荷物を運ぶ人のほうが、働く姿が身近で人となりも見ることができた。それが船員となると、一般人にはほとんどブラックボックスなのだ。

 そこで石川さんは、そもそも内航海運とはどのような仕事なのか? という動画を作成した。それが下記だ。非常に分かりやすくできている。

 このような動画を参考にすれば、「想像とは違った」などのミスマッチを防ぐことができる。

 次に行ったのが、船会社向けの動画だ。職人気質の世界だけに、同じ内容の仕事でも手順などやり方が異なる。そんな現場に若者が混乱するといったことが少なくないため、仕事のやり方の統一化を啓蒙する内容だ。

 石川さんが今目指しているのは、内航船員業界のプラットホームをつくることだ。現状でも500人超の関係者が集うページにはなっている。このような場で情報交換が活発に行われることで、業界の課題などが〝見える化〟されて、業界全体の底上げにもつながることを期待している。

 「人が集まる魅力的な業界にしていきたい」という石川さん、それは個人の願いにとどまらず、日本の生命線である海運を救うことにもなる。

Wedge11月月号では、『深刻化する船員不足 島国ニッポンの大動脈をどう守る?』を掲載しています。

  
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