現在東京ビッグサイトで開催されているジャパン・モビリティ・ショー(旧東京モーターショー、以下JMS)。各社が斬新な未来のモビリティとしてのコンセプトEVを発表する中で、異色を放っているのがマツダの存在だ。
マツダは日本のトヨタ、ホンダ、日産が昨年の世界の自動車販売でトップ10に入る中、決して大きなメーカーとはいえない。電動化でも遅れを取っており、将来の存続を危ぶむ声もある。しかし、ことデザインに関しては決して巨大メーカーにひけを取らないことを今回のJMSで証明した。
今回日本のメーカーがこぞってEVコンセプトを出したのだが、そのデザインがみょうにサイバートラック的、というかエッジの効いた未来的、と表現されるようなデザインに偏っていた印象がある。
そんな中でマツダが出した「ICONIC SP」という車。美しい流線を中心としたデザインで、フェラーリなどのデザインを手掛けるピニンファリーナを思い起こさせるような曲線美が目立つ。
デザインを担当したのはマツダデザイン本部、アドバンスデザインスタジオ部長兼チーフデザイナー、岩尾典史(のりひと)氏だ。同氏はこのデザインのインスピレーションについて、「動くことへの感動を表現したかった。車ならではの生きた表情を作り上げたかった」と語る。
現在では生成AIにある程度の基礎デザインを任せるメーカーもあるのだが、岩尾氏は一切マシンの手を借りない、という。それは「結局は人の方がAIよりも上。AIに任せることでデザインが濁る」という信念があるためだ。人が手掛けるからこそAIよりも一歩先に行ける、人が中心のデザインができる、と岩尾氏は言う。
しかもICONIC SPは、マツダの代名詞でもあるロータリーを組み込んだEVだ。2つのローターをモーターで動かすという仕組みだ。一般的にEVは車体の底にバッテリーを置くために車高が高くなる傾向があるが、2ローターシステムによりボンネットを低くできる、という利点がある。
また従来ギアなどを収納するセンタートンネル内にバッテリーを設置することで、ガソリン車から大きくデザインを変えることなくEVをデザインすることが可能となっている。
岩尾氏は「ガソリンであれEVであれ、やはり車は運転して楽しいものであるべきで、車の機能美はシステムによって損なわれるべきではない」という。ICONICで追求したのは車と人との新しいストーリーの創出なのだそうだ。
マツダは未来の車について、決してEV一辺倒というわけではなく、マルチソリューションを求めている。例えば海藻を原料としたバイオ燃料の研究にも取り組んでいる。ロータリーエンジンやミラーエンジンといった世界に類のない技術を生み出したメーカーらしい、独自のSDGsへの取り組みが見られるのだ。
例えばセルフエンパワメントドライビングシステム、というもの。これは手動とペダルによる運転を切り替えられるもので、足の不自由な人と健常者が同じ車を共有できる。途中で運転を交替しながらドライブが楽しめる、といった特徴があり、このシステムはマツダの全車種に取り付けが可能だ。