2024年12月9日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年12月27日

 2023年12月8日付のTaipei Times社説が、台湾の独立は既に「現状」であり、民進党が同党の台湾独立綱領を残すことは中国に対する台湾の政治的武器になり得ると論じている。

(borzaya/Igor Ilnitckii/gettyimages)

 台湾独立という概念は、民進党の1991年の党綱領で初めて提唱された。党結成メンバーにより書かれた「台湾独立綱領」は、新憲法、新たな主権、独立した台湾共和国を提唱している。その目的は、国民党の独裁体制からの束縛から解放されることだった。

 台湾の総統が民主的に直接選挙で選はれるようになると、中国共産党は選挙を台湾独立の先駆とみなし、95年から96年の台湾海峡危機に繋がった。選挙で民進党の綱領は争点となり、99年5月に同党は、独立の概念を主権国家としての台湾に修正する「台湾前途に関する決議文」を採択した。民進党にとり「台湾前途に関する決議文」は「台湾独立綱領」にほとんど取って代わられているが、同綱領を廃止してはいない。

 台湾独立という言葉は多義に渡っているため、台湾独立論は議論を呼んでいる。それは、台湾共和国のため新憲法を制定することも意味し得るし、単に総統選挙を実施することも意味し得る。結局のところ、台湾が独立していないとすれば、なぜわざわざ総統選挙を実施するのか。

 民進党は台湾独立綱領を棚上げしたことを、過去20年間の行動と実践で証明してきた。それゆえ、米中を安心させるため台湾独立綱領を放棄すると頼が宣言する必要はない。民進党がそうしたとしても、中国共産党は別の口実を見つけて、民進党には独立の意図があると言うだろう。

 中国共産党は、台湾独立は両岸交流の最大の障害と主張するが、それは当たらない。頼は、2014年に上海の復旦大学で、「台湾独立論は民進党が誕生する前から存在していた」と述べている。

 独立の理念は、台湾人が守り尊重すべき政治的姿勢である。中国共産党に台湾の民主主義を定義させないことで、台湾は自らのアイデンティティを維持している。独立綱領があったからこそ、「台湾前途に関する決議文」に深みが加わったのだ。政治環境が大きく変化したとはいえ、台湾の武器として独立綱領を残しておくことは良いことだ。

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 上記社説は、台湾の「現状」を「台湾独立」との関係で如何に解釈するかについて論じたものである。国民党の総統候補の候友誼が最近、民進党総統候補の頼清徳に対し、民進党の「台湾独立綱領」を放棄するよう求めたことが本論のきっかけになっている。

 このTaipei Timesの記述は特段新しいものではないが、総統選挙を控えた節目の時期である今日、これまでの台湾の歴史を再認識するうえで役立つものと言えよう。


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