2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年12月27日

 民進党はもともと1991年に「台湾独立綱領」を採択した政党であり、「台湾独立」を目標とすることをその綱領の中で唱っている。しかし、99年には独立のトーンを抑え、「台湾前途決議文」を採択し、「台湾はすでに主権が確立した国家である」と規定した。

 このような民進党内部の変化の背後には、96年の台湾海峡における中国の対台湾ミサイル危機があったに違いない。

 振り返ってみれば、2000年から08年まで続いた陳水扁(民進党)総統下では、「中国が台湾に対し、武力を行使しなければ、台湾が独立を宣言することはない」との立場を取った。

 08年から8年間続いた馬英九(国民党)政権下では、中国との間で「92年コンセンサス」と呼ばれる立場をとり、その内容は台湾側の解釈では、「一つの中国、各自表述」とされ、その意味は「一つの中国」とは「中華民国」を意味するものとされている。中国側にとっての「一つの中国」とは、あくまでも「中華人民共和国」であり、「一つの中国」という表現は、中台間で文字通り同床異夢の内容となっている。

 今日、蔡英文下の台湾の立場は台湾がすでに主権の確立した国であるが、敢えてそのことを明言することによって、中国を無用に刺激、挑発しないとの立場であり、「現状維持」の立場を守りつつ、台湾政府として、民主、自由、人権の体制を堅持するとの立場をとっている。今日の台湾は、実態としていえば「中華民国(台湾)」ということなのだろう。

頼清徳候補の主張は

 台湾の中には、台湾の現状を見れば、国連のメンバーではないため、国際的に孤立しているものの、中華人民共和国の統治下にはなく「事実上すでに独立している」のと同じであるとの見方をする人たちも少なくない。

 次期総統候補である民進党の頼清徳は、かつて「自分は台湾独立のために仕事をする人間になりたい」との趣旨の発言をしたことがあるが、今日では、中華人民共和国との間では「対等で尊厳のある形」で対話できることを望むと述べ、基本的には蔡英文の「現状維持」路線を踏襲している。

 頼清徳は最近の談話の中でも、「台湾を引き続き安定した道に乗せ、国際社会の中に入っていく」とし、「一つの中国という古い道に後戻りしない」と述べた。

 このような状況下で、上記の社説が、覇権主義的な中国に対抗するため、かつて民進党が採択した91年の「台湾独立綱領」を存続させることは、有効な政治的武器となりうる、と述べているのは傾聴に値する。ただし、現実には、台湾にとっては、91年の「台湾独立綱領」を前面に押し出すのではなく、99年の「台湾前途決議文」に基づいた「現状維持」の立場を強化することが求められていると言えよう。

『Wedge』2022年8月号特集「歪んだ戦後日本の安保観 改革するなら今しかない」に、安全保障に関する記事を加えた特別版を、電子書籍「Wedge Online Premium」として、アマゾン楽天ブックスhontoなどでご購読いただくことができます。

 

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る