2024年5月17日(金)

家庭医の日常

2023年12月28日

家庭医の診断の仕方

 家庭医による病気の診断の仕方には何通りかある。まず、病歴聴取と身体診察を行う。これは欠かすことができない基本である。それに加えて、検査をしてその結果を参考にする、他領域の専門家へ紹介して診断の確定と治療を急ぐ、症状の進展を確認するために「時間を使う」、などを組み合わせたり使い分けたりしている。

 例えば、2023年9月の『徹底解説!帯状疱疹の症状と治療、予防について』で紹介したK.O.さんの帯状疱疹の診断では、病歴聴取と身体診察をしても発疹の出現前では診断をつけることはできないが、「時間を使う」ことで出現した典型的な発疹を確認して診断が確定できた。検査は必要なかった。

 痛風の診断では、確かにK.N.さんの仕事仲間が病院で受けたように、診断のための多くの検査が存在する。採血検査で血清の尿酸濃度の上昇を確認すること、超音波、CT、磁気共鳴画像装置(MRI)などの画像検査で関節の変化を確認すること、そして炎症を起こした関節の隙間に針を刺して貯留した液体を採取し、偏光顕微鏡で尿酸結晶の存在を確認することなどがある。

検査の数と医療の質は一致しない

 多くの検査(特に高度先進医療機器を用いた検査)をすれば質の高い医療であるかのような幻想をもつ人が多い。しかし実際は、それは必ずしも正しくない。検査をすることでどんなメリット(有益性)があるのかだけでなく、検査をすることで被るデメリット(害)についても考える必要がある。

 検査の害には、検査を受けることの心身の苦痛(採血の痛み、悪い結果への心配など)、検査の合併症(出血などから放射線で高まる発癌リスクなどまで)、そして経済的負担(保険でカバーされていても自己負担額は増える、もちろん国の財政負担も増える)もある。

 コストをかければかけるほど医療の質が高まる、というのも幻想である。しかも医療にかけることができる財源や資源や人材は、国や地域を問わず有限である。同程度のメリットをどうやって低コストで実現するか、できるだけコストを抑えて質を高めるためにどうするか、という視点(費用対効果と呼ぶ)が重要である。

 さらに、どんな検査も完璧ではなく、必ず偽陽性(本当は陰性なのに検査結果が陽性と出る)や偽陰性(本当は陽性なのに検査結果が陰性と出る)というエラーが存在する。偽陽性の場合は不必要な治療が始められてしまう危険があるし、偽陰性の場合は疾患が見逃されて放置されてしまう危険がある。

臨床予測ルールでできること

 幸いなことに、痛風の診断については、不必要な検査をしなくても家庭医のケアの現場で安全に痛風を診断するための「臨床予測ルール」が利用できる。精緻な臨床研究('A diagnostic rule for acute gouty arthritis in primary care without joint fluid analysis''The validation of a diagnostic rule for gout without joint fluid analysis: a prospective study')でこれを開発したのは、家庭医の臨床研究では世界でトップクラスのオランダ、ナイメーヘンにあるラドバウド大学のアカデミック家庭医たちである。「臨床予測ルール」は下記のような7項目からできている。

 この「臨床予測ルール」を使ってK.N.さんの左足の痛みを評価すると、「発症から1日しか経っていない」(前夜に発症した)、「関節周囲の皮膚が赤くなる」、「高血圧または心血管疾患がある」(高血圧があった)、「男性」、「既往歴に関節炎または関節痛がある」(その前年に同じ関節の痛みがあった)、そして「第1中足趾節関節に症状がある」が該当したので、合計点数は9.5となり、採血検査で血清尿酸値を調べるまでもなく「高リスク」のカテゴリーとなった。


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