2024年11月23日(土)

家庭医の日常

2023年12月28日

 「高リスク」では痛風と診断してマネジメントすることが推奨される。ちなみに、「低リスク」では痛風以外の診断を考えることが、そして「中リスク」では関節穿刺をして偏光顕微鏡で尿酸結晶を確認することが、それぞれ推奨されている。

 仮に、尿酸結晶が確認された場合に真の痛風であると確定診断でき、尿酸結晶が確認されない場合は真の痛風でないと確定診断できるとすると、前述の研究結果では、「高リスク」カテゴリーの人が痛風である確率は87%、「低リスク」カテゴリーの人が痛風でない確率は95%だった。前者はこの「臨床予測ルール」の陽性的中率(positive predictive value; PPV)、後者はその陰性的中率(negative predictive value; NPV)に相当する。

 なお、K.N.さんの初診時、最初に採血をして血清尿酸値を調べなかったのは、臨床予測ルールの点数が9.5と「高リスク」カテゴリーに入るのに十分高かったこともあるが、実はもう一つ理由があった。それは、痛風の痛み発作の最中では血清尿酸値が不安定で、痛風なのに高値でないこともあり、後日再検査することを推奨するガイドラインもあったためである。無駄な検査を出来るだけしない、ということも医療の質の指標の一つであるべきだ。

痛風の「風」とは

 上記の内容をK.N.さんに説明して、彼の意向も聴いて相談し、その時点で敢えて検査をする必要はないという方針にした。その後、私とK.N.さんは痛風のマネジメントについて相談していった。その日の診療の最後に、K.N.さんは私はこんな質問をした。

 「ところで、なんで『痛風』って呼ぶんですか」

 「痛みが強くて、患部が風に吹かれただけでも痛みを感じるから、という説をよく聞きますが、真偽のほどはわかりません。K.N.さんは『中風(ちゅうぶ)』って聞いたことがありますか」

 「脳卒中のことですか」

 「はい、脳卒中ですが、むしろその後遺症としての麻痺の方を指すことが多いようです。日本語の『脳卒中』は中国語では『中風』、日本語の『中風』は中国語では『麻痺』なんです。昔は、邪気である『風邪(ふうじゃ)』が人の身体に入ってきてさまざまな病気を起こすと信じられていたようで、突然脳卒中で半身不随や言語障害を起こしたものを『中風』と呼んだんです。だから『痛風』は『風邪(ふうじゃ)によって起こる痛い病気』という意味だったかも知れません」

 「なるほど、興味深いですね」

 「『風邪(かぜ)は万病の元(もと)』と言うのも、『感冒をこじらせると重い病気になる』と言う意味ではなくて、実は『邪気としての風邪(ふうじゃ)がさまざまな病気を起こす』という意味なのかも知れません」


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