過去を振り返れば、16年4月の総選挙で与党が敗れたことを受けて、朴槿恵大統領への責任追及が始まり、最後には友人で実業家との政治スキャンダル「崔順実ゲート事件」で憲政史上初の大統領弾劾・罷免にまで発展した。韓国を西側陣営に復帰させた尹政権の帰趨を占う上でも、総選挙をめぐる動きには注目せざるを得ない。
気になる北朝鮮情勢と米大統領選
二つ目の視点である国際では、北朝鮮の動向と11月に行われる米国大統領選挙が焦点となる。北朝鮮は21年1月の朝鮮労働党第8回大会で国防5カ年計画を採択し、目標達成に向けて邁進しており、後半戦となる24年には、更なる偵察衛星の打ち上げ、さまざまな種類の弾頭ミサイルの発射を行うとみられる。23年11月の北朝鮮による偵察衛星打ち上げを機に、南北軍事合意が効力を失った状態にあるので、南北間で小規模な交戦が起こり、一時的に軍事的緊張が高まることは否定できない。
また、北朝鮮は3年7カ月におよぶ国境封鎖を解除し、23年9月には金正恩氏がロシアの宇宙基地ボストチヌイを訪れ、プーチン大統領首脳会談を行い、同会談での密約を受けて、北朝鮮はロシアに弾薬などを提供するに至った。これらの動きから、北朝鮮が外交と海外での工作活動を再開したと判断される。
韓国でこれまで北朝鮮の工作活動を探知してきた国家情報院が23年末で共産主義活動の捜査を行う対共捜査権を警察へと移管し失ったことは、今後の北朝鮮情勢に少なからぬ影響を与えるだろう。サイバー攻撃や暗号資産の窃取など北朝鮮の工作活動に対する情報収集の弱体化の影響が海外にも波及することが懸念される。
そして、韓国の国際関係に最も大きな影響を与えるのは、11月5日に行われる米国大統領選挙だ。選挙では、共和党のドナルド・トランプ前大統領と民主党のジョー・バイデン大統領の一騎打ちとなる公算が大きく、トランプ氏の返り咲きが現実となる可能性がある。
トランプ氏は大統領在任時、在韓米軍撤退や米韓自由貿易協定(FTA)の破棄を示唆する同盟無視の言動を繰り返した。それを受けた文在寅政権で、独自の核武装や米韓同盟廃棄などが持ち上がるなど、同盟関係は迷走した。
このようなトランプ氏が残した悪しき遺産を払拭するため、バイデン大統領は23年8月、大統領専用保養地のキャンプ・デービッドで日米韓首脳会談を開き、首脳、外相、国防相などが最低年1回協議することを盛り込んだ共同声明「キャンプ・デービット精神」を発表した。上述の尹大統領が24年上半期に開催を目指す日米韓首脳会談は、この精神に基づく2回目の会談を指す。
「もしトラ」と喩えられるトランプ氏再選が現実のものとなれば、日米韓の友好関係に再び深い亀裂が生じる恐れがある。また、もしトラでもう一つの懸案は、トランプ氏の北朝鮮政策だ。在任中に金正恩氏と3回にわたり会談したトランプ氏が、世界の注目を集めやすい北朝鮮問題で成果を求める蓋然性は大きい。