経済のカギ握る軍需産業とデジタル通貨
三つ目の視点である経済について、韓国のシンクタンク「サムジョンKPMG」は、12月に発表した「2024年国内主要産業展望報告書」で、半導体、携帯電話、エネルギー、ユーティリティ、損害保険など11の業種で、新規商品・サービスを通じて市場を拡大し、グローバル市場を開拓し、需要創出と収益向上につながると、期待感を示している。特に半導体市場では、23年に−9.4%となった減少を24年には13.1%の成長で挽回するとしている。
また、新たな輸出産業として、近年世界から注目を集めている防衛産業は、文在寅政権の2020年代から躍進期に入り、韓国の武器輸出は20年に約30億ドル、21年に約72億ドル、22年には約172億ドルと倍々ゲームの様相を呈しており、23年の輸出額は200億ドルを超えると見込まれている。200億ドルを円換算すると約2兆8000億円になり、これは韓国の武器輸出が日本の航空機産業や防衛産業の規模(ともに約1兆8000億円規模)を大きく凌駕していることを意味する。
政治理念では文政権と対極にある尹政権だが、武器輸出については前政権の政策を引き継いでおり、尹大統領は22年12月に招集した第1回防衛産業輸出戦略会議で、任期が終える27年までに、世界の武器輸出シェア5%獲得、世界4大武器輸出国入りを目指して1兆ウォンに上る補助金を投入することを表明した。
過去、武器輸出は「死の商人」のイメージで語られていたが、現在では国家安全保障の根幹である武器を提供、共有することで、極めて高いレベルの国家関係を築くための手段になっている。韓国はこれまで中小国への輸出が中心であったが、豪州への自走榴弾砲の輸出を成就し、6兆円規模とも言われるカナダの新型潜水艦事業を視野に入れて、政財官がタックを組んで受注に取り組んでいる。
もう一つ、韓国の先進的な取り組みとして、24年第4四半期に10万人が参加する中央銀行デジタル通貨(CBDC)の試験運用を上げなければならない。主要国の中央銀行は近年、デジタル決済の増加に対応するため、CBDC開発を模索している。
現在のところ、中国のデジタル人民元が注目を集めているが、韓国は21年12月に模擬環境でのCBDC発行テストを終了しており、二番手に位置している。韓国のデジタル技術と輸出機運を考えると、独自のCBDC技術で世界に打って出ることが考えられるので、その動きから目を離せない。
懸念の徴用工裁判
最後となる日韓関係は、これまで述べてきた政治、国際、経済の動きが複合して影響を与えると言える。現在までのところ、尹政権の誕生によって、日韓関係は近年で最も友好かつ安定した状態で推移している。
尹氏は就任後の光復節(独立記念日)の演説に際して、歴代大統領で初めて日本の植民地支配に言及しなかった。尹大統領は日本を「国際社会における自由を守り、広げるためのパートナー」と認識しており、それは現在まで一貫している。
しかし、そんな尹政権も、徴用工裁判への対応という悩みの種を抱えている。韓国大法院(最高裁)は23年12月、3件目となる日本企業への賠償命令を下した。尹大統領は、これら賠償に関して、韓国政府傘下の財団が賠償金を肩代わりする解決策を進めているが、一部の元徴用工や遺族は財団からの受け取りを拒否している。
同問題への対応は高度な政治・司法判断の下で進められているが、韓国人のアイデンティティに直結する問題でもあるため、尹大統領は難しい舵取りを迫られることになる。