2024年11月24日(日)

近現代史ブックレビュー

2024年2月17日

戦中戦後を一貫する「啓蒙意識」

 この時期のこれまでの演劇史叙述が問題なのは、50年代の枠組みから離脱できず、無名の観客を無視した一定の図式を前提に自己正当化の文脈で語る者が多いからである。商業演劇やレビューなど庶民からインテリまで幅広く愛された領域の検討があまりにも乏しい。

 確かに新聞などではそれまで「演劇・映画」と言われていたものが戦時中に「映画・演劇」と地位が逆転し、演劇の評価は低くなっている。演劇人の中には、45年8月の上旬と終戦後の下旬とでほとんど反対の意見を平気で書いている人がいるが、著者は演劇の評価が低くなったためにあまり問題にされなかったのではないかと考察している。

 それにしても、国策に利用されつつも、同時に大衆に親しまれた流行歌や軍歌やポスターがなぜ愛され、戦後も口ずさむ人がいたのか。彼らは好戦的だったわけではない。その心性の謎を探求することなく、それらを愛した大衆を指導者意識で断罪し、決められた「ある方向」に導こうとした一部演劇人の特権的スタンス、遂に大衆とは寄り添うことのできなかった戦中戦後を一貫するこの「啓蒙意識」を、著者は最大の問題としている。

 例えば新劇人と映画界の関係についても、著者は立体的に描いているので決して叙述は一面的ではないが、考えてみると、これは単に演劇界だけの問題ではなく、思想や文学などあらゆる文化領域にまたがった問題ではないか。演劇界に起こった問題は、この時期の全ての日本文化に関わる問題として今日見直さなければならないことを明らかにした論考・書物といえよう。

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Wedge 2024年3月号より
ジェンダー平等と多様性で男性優位の社会を変えよう
ジェンダー平等と多様性で男性優位の社会を変えよう

「育児休暇や時短勤務を活用して子育てをするのは『女性』の役目」「残業も厭わず働き、成果を出す『女性』は立派だ」─。働く女性が珍しい存在ではなくなった昨今でも、こうした固定観念を持つ人は多いのではないか。 今や女性の就業者数は3000万人を上回り、男性の就業者数との差は縮小傾向にある。こうした中、経済界を中心に、多くの組織が「女性活躍」や「多様性」の重視を声高に訴え始めている。

内閣府の世論調査(2022年)では、約79%が「男性の方が優遇されている」と回答したほか、民間企業における管理職相当の女性の割合は、課長級で約14%、部長級では8%まで下がる。また、正社員の賃金はピーク時で月額約12万円の開きがある。政界でも、国会議員に占める女性の割合は衆参両院で16%(23年秋時点)と国際的に見ても極めて低い。

女性たちの声に耳を傾けると、その多くから「日常生活や職場でアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見)を感じることがある」という声があがり、男性優位な社会での生きづらさを吐露した。 

3月8日は女性の生き方を考える「国際女性デー」を前に、歴史を踏まえた上での日本の現在地を見つめるとともに、多様性・多元性のある社会の実現には何が必要なのかを考えたい。 


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