2024年12月10日(火)

近現代史ブックレビュー

2023年4月19日

 近現代史への関心は高く書物も多いが、首を傾げるものも少なくない。相当ひどいものが横行していると言っても過言ではない有様である。この連載「近現代史ブックレビュー」はこうした状況を打破するために始められた、近現代史の正確な理解を目指す読者のためのコラムである。

 本書は近代日本放歌高吟史である。日本人は江戸時代まで生活の中心に歌を取り入れていたので、明治維新後も路上で放歌高吟していた。このため、政府・警察は放歌罪という罪を設定し、それを禁止したというところから始まる。

『歌う民衆と放歌高吟の近代』
永嶺重敏  勉誠出版 3850円(税込)

 放歌罪による放歌禁止にもかかわらず、よく路上で放歌高吟が行われるので、取り締まる巡査と歌う民衆はさまざまな形で衝突。放歌がよく行われたのは湯屋であり、汽車・人力車・花見でも放歌が行われたので騒ぎが起きたことが描かれる。

 また、江戸期以来、労働・仕事の際の歌が非常に多く、日本にやって来た外国人はそれを驚きの目で見ていた。船乗り、駕籠かき、馬子、人力車夫、土木作業者、木遣り、女工などである。

 そうした中、唱歌教育が導入され、小学校を中心に唱歌が広められていく。また軍隊において軍歌が広められ軍歌による行進が行われるようになっていった(それのみは許された)。

 しかしこうした上からの動きに対して、一方では、旧制高等学校生を中心とした放歌高吟文化が展開する。最初寮では、放歌高吟は禁止されていたのだが、明治30年代ごろから第一高等学校を中心に寮歌がつくられ歌われだし、ストームが行われ、デカンショ節が広められ、学生文化は全国的に放歌高吟状態となったのである。

 また、明治の後半頃からは社会主義者たちの示威行進歌が始まる。学生の歌唱街頭行進のはじめは大正元年の早稲田大学校歌による矯風運動行進で、大正半ばには普通選挙運動が本格化し、歌いながらの示威行進が頻繁に行われるようになる。与謝野晶子作詞の「普選の歌」がつくられ、3万人もの街頭行進が行われたのであった。


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