2024年5月9日(木)

キーワードから学ぶアメリカ

2024年1月30日

ノーレイベルズ:候補にもよるが民主党にとって脅威?

 今日の米国では、民主党の左派的スタンスを嫌う一方で、トランプが大統領となるのも好まない人々が第三の勢力を結集しようとする動きを示している。かつて民主党の副大統領候補となったジョー・リーバーマンと、前メリーランド州知事のラリー・ホーガン(共和党)らが中心となっているその動きは、ノーレイベルズ(ラベルなし)と名付けられている。

 ノーレイベルズが注目しているのが、民主党上院議員のジョー・マンチンである。左傾化が顕著になっている民主党の中で、穏健派のマンチンはしばしば左派主導の政策提案に反対し、共和党と超党派的な立法を行う可能性を模索してきたとされる。マンチンは長らくウェストバージニア州という保守的な州で勝利し続けてきたが、24年の連邦上院議員選挙に出馬せず、上院議員からの引退を表明している。

 ノーレイベルズはマンチンに出馬を打診しているが、彼が出馬すれば両党の穏健派(とりわけ民主党穏健派)から票を奪う可能性が高いだろう。もしマンチンが出馬しない場合はホーガンが候補となる可能性もあるかもしれないが、その場合は共和党の方からより多くの票を獲得する可能性もあるかもしれない。

リズ・チェイニー:共和党にとって脅威

 リズ・チェイニーは、ディック・チェイニー元副大統領の娘であり、ワイオミング州選出の連邦下院議員を3期務めた人物である。外交政策ではネオコン的な立場をとり、人工妊娠中絶に反対し、減税を主張するなど、伝統的な共和党保守派の立場にある。

 だが、チェイニーは共和党下院のNo.3の位置にありながら、21年の連邦議会議事堂襲撃事件の調査特別委員会でトランプを批判して、共和党指導部を追放され、22年の中間選挙ではトランプ派の刺客に敗北した。そして24年選挙に関しては、トランプとトランプ派議員を落選させるために最善の方法を模索中で、大統領選挙への出馬も選択肢の一つだとしている。

 トランプ批判の急先鋒であるチェイニーは、トランプ派候補を落選させるために民主党に協力する姿勢を示すこともある。チェイニーによれば、24年大統領選挙では二大政党の獲得する大統領選挙人の数が270未満(例えばともに268)となって勝者が決まらない可能性がある。そのような場合に大統領を決定するのは、連邦議会下院である。具体的には、50州の連邦下院議員が各州を代表する下院議員を1人選び、その人々が集まって大統領を決めることになっている。そのため、下院でどちらの政党が多数をとるかというだけではなく、どれだけの州で民主党が連邦下院議員の多数を占めるかが重要になるのである。

 22年中間選挙後は、共和党が多数の州は26、民主党が多数の州は22、ミネソタとノースカロライナは同数となっているので、民主党が多数をとる状況をつくろうと尽力しているのである。実際に下院が最終的な大統領選挙の結果を決めたのは200年前のことなので、その可能性は高くないだろうが、このような計画のもとに組織的な動きを展開する可能性のあるチェイニーの動きは、間違いなく共和党にとって脅威である。

緑の党とコーネル・ウエスト:民主党にとって脅威

 他に出馬を予想されているのが、緑の党のジル・スタインである。同党が具体的な候補者を確定するのは5月になるとされているが、スタインが候補になる可能性が高いとされている。

 実はスタインは16年大統領選挙にも出馬し、一定の票を獲得した。彼女が票を奪わなければ、いくつかの州で民主党のクリントンが勝利し、トランプ政権の発足を防げたのではないかという議論もある。いずれにせよ、スタインが出馬すれば民主党から票を奪う可能性があるため、民主党にとって脅威だといえるだろう。

 その他にも、左派の黒人大学教授であるコーネル・ウエストも出馬を表明している。彼は緑の党から出馬する可能性も一時期指摘されていた。最近ではイスラエル批判でも注目されている。ウエストも民主党から票を奪う可能性がある。

 24年大統領選挙は、バイデンとトランプの双方が高齢なのに加えて(バイデンが81歳、トランプが77歳)、トランプの訴訟もあり、不測の事態が起こる危険性は通例より高いとされている。しかも、その選挙結果は、本記事が指摘したような少数者の意向によって決まる可能性が高く、また、第三の政党・候補の動向によって左右される可能性もある。このような点を念頭において、大統領選挙の展開を見ていただけると幸いである。

 

   
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