日本は大丈夫か
インドの情報機関が影響力を高めている中で、気になるのは、日本は大丈夫か、という心配だ。日本には、情報に関して、その重要性を示す教訓があるからだ。
それは戦国時代の桶狭間の戦いだ。2000人の織田信長の軍隊が、10倍以上の2万5000人の今川義元の軍を打ち破った。このような結果をもたらしたのは、織田信長が情報を重視しており、今川義元の位置を正確に特定して、そこだけを狙って襲撃したからだ。
今、日本には、この織田信長のような、情報の有効活用が求められている。中国の軍事支出の増加が著しく、スウェーデンの国際平和研究所(SIPRI)の計算では、2022年の時点で。日本の6倍以上になっているからだ。
しかも、13~22年の10年間で、日本の防衛支出は18%伸びたが、中国は63%伸びた。どんどん差が開いている。この10年で中国海軍が建造・配備した艦艇は148隻とみられ、海上自衛隊全体の艦艇数より多い。
だから、日本も、他の国と協力して、中国に対抗できる体制を整える必要がある。当然米国との協力は大前提だが、他の国との協力も重要になっている。
例えば、インドの防衛支出は日本の1.7倍、韓国の防衛支出も日本より多い。人口が日本の5分の1しかない豪州でも、日本の7割の防衛支出を行っている。13~22年でみれば、インドは防衛支出を47%、韓国は37%、豪州も47%、増やしている。日本の18%をはるかに上回る数字だ。
このような状況だから、日本は、とても少ない防衛支出を、情報を用いて有効活用し、何倍も、何十倍もの効果を上げなくてはならない。そして、他の友好国とも情報を用いて協力し合わなければならない。そういった危機的な状況だ。
だから最近では、インド太平洋の国々だけでなく、ファイブ・アイズ(米英豪加ニュージーランド)との協力や、北大西洋条約機構(NATO)の東京事務所の設置、米英豪AUKUSへの日本の参加などが話題になるようになったのである。日米豪印QUADでも情報協力はカギだ。
ところが、いざ情報で協力し合おうとしても、日本には他の国のカウンターパートになるような本格的な情報機関が存在しない。内閣情報調査室はあるが、規模が極端に小さい。これでは、連携した作戦を行うどころか、収拾できる情報も限られる。
そうすると、他の国の情報機関とギブ・アンド・テイクの情報交換すらできないだろう。相手には、日本にとって有益な情報があったとしても、日本の方に、相手にとって有益な情報がなければ、交換にならないからだ。
つまり、日本は他の国と協力する時、外務省同士、防衛省同士は協力できるが、情報機関同士では協力できないのである。だから、例えば、アフガニスタンや、イスラエルで何か起きた時も、情報機関同士の協力で、助け合うことはできず、情勢がよくわからないので、行動が遅れる原因になる。
実際、日本の邦人救出は、2021年のアフガニスタンの時も、23年のイスラエルの時も、他の国よりはるかに遅かった。同じアジアでも、インドや韓国の方が、動きがはるかに速いのである。
日本には、桶狭間の戦いという、素晴らしい教訓がある。情報を重視して織田信長になるか、それとも、情報を軽視して今川義元になるか、台頭するインドの情報機関の存在は、今、日本人に、その重要性を喚起しているのである。