特に辛い冬場での仕事
上空100mの山岳地と50mの都心部、高さやまわりの環境によって仕事の仕方は大きく異なる。菊地さんは「都市部が特に緊張感が高い」と話す。住宅街に張り巡らされた電線の上での作業は人通りも多く、ひとたび物を落とせば、大災害にもなり得る。
実際、この道12年の菊地さんは過去に鉄塔で手を滑らせて物を落とし、下を歩く人に当たってしまったことがある。幸い打撲程度で、大事には至らなかったが、人にけがを負わせた恐怖は今も忘れない。自らの身だけではない危険と隣り合わせということだ。
真夏日や真冬の寒さ、雨が降っても作業が行われ、天候を選ぶことは少ない。特に、大雨や突風、大雪となれば、電線が破損して停電が起きる可能性も出てきてしまう。ラインマンは停電を避けることがこの仕事の至上命題とも言え、早急な対応が求められる。休日でも〝出動〟を命じられることもあるという。
中でも菊地さんが苦手な季節が冬だという。防寒のための上着で着ぶくれし、ワークポジショニング用ロープのかけ方やかかり方の具合が異なる。手がかじかむと作業がしにくくなり、かと言って防寒手袋を着けると小さな物を持つ感覚が変わり、作業の時間も余計にかかる。「冬を苦手とする人は多い」とのことだ。
「重い工具や資材を持って、1日中、鉄塔や電線の上にいる時もある。さまざまな危険と隣り合わせの中、腹筋や体幹を使ってバランスを保ち、手や足を使い登ったり降りたりする。勤務終了とともにぐったり疲れてしまっていることも多い」(菊地さん)
やはり電線は空中、人の手も必須
こうした危険を伴う作業が必要となる空中に電線を張り巡らす必要はあるのだろうか。たしかに、観光地などでは電線により景観が損なわれてしまっていることもある。電線の地中化を求める声もあるだろう。だた、送電線建設技術研究会は「まずは送電線工事のための用地確保が先決となる。一方、地中化には景観や電線共同溝の利用などのメリットもあり、送電線の形態はさまざま」と話す。
まず、電線を敷設する際、地中を通すルートを確保しなければならない。その時に漏電を防ぐために絶縁などの保護が必要となる。これだけで大きなコストがかかってしまう。
また、停電などのトラブルが起きた時に、地上では破損個所を見つけやすいのに対し、地中にあると、故障した場所を特定しにくい。場合によっては地面を掘り返す必要がある。そうした作業は、空中にあるのと比べて、復旧に時間がかかることとなる。
台風や大雪といった非常事態においては、早急な対応が求められるにもかかわらず、こうした時間と手間のロスは二次災害を起こしかねないという。通常の点検においても必要作業が増えてしまう。やはり、空に電線を張ることが現状では一つの選択肢なのだ。