現場では、前準備としてドローンを活用するなどの省力化も進めている。そのほか、機械化も進められる部分もあるだろうが、ETSで25年働く佐藤直行さん(43歳)は「接合部分など、やはり人の手でしかできない部分も多い」と指摘する。
ここでも忍び寄る高齢化と人手不足
今もこれからも必要不可欠な仕事となりそうなラインマンであるが、現場の悩みは人手不足と高齢化だ。同研究会によると、現場のラインマンは2013年が6000人で平均年齢が41歳だったのが、22年は5742人で42.9歳。「人は入って来ているものの、現場の職人が増えたり平均年齢を下げたりするほどにはならず、引退せずに働き続けてくれる人によって成り立っていると言える」と同研究会は指摘する。
現場の平均年齢をじりじりと引き上げているのが若手の定着率の低さであり、その理由は勤務環境のようだ。
実は、佐藤さんは18歳の時に入社した後、20代半ばの時にこの仕事を辞めている。「出張が多く、1カ月や2カ月は地元におれず、友達とも遊べないといった日々が嫌になりました」と振り返る。
送電線は全国各地にあるため、地方が現場となれば、その近くの宿泊先などに1カ月間など住み込み、作業にあたる。会社の同僚と寝食を共にすることとなる。家に帰りたい、自分の時間が欲しいといった人にとっては苦痛を感じることも出てくる。また、山岳地へと出張となれば、娯楽も少なく「休みの日に行ける場所はパチンコぐらい」と佐藤さんは苦笑する。
佐藤さんは製造の仕事へと転職したが、毎日異なる現場で知らない場所へ行き来するラインマンの仕事への魅力を改めて感じ、半年で戻った。ただ、多くの若者がラインマンの仕事の醍醐味を感じる前にその職を去ってしまうことが起きてしまっているのだろう。
電線の上での作業は歳を取るごとに精神的にも肉体的にもきつくなっていくようだ。佐藤さんは「高所での仕事をやると、あちこちが痛くなったり、肩がだるくなったりすることが多くなった」と話す。ETSでは、40代になると、高所作業ではなく、工具や資材の上げ下げや電線の張力調整をする機械の操作をするといった役割へと変わっていくという。そうした仕事もなくてはならず、高所での経験があってこそ円滑な業務ができることとなるが、若手が定期的に入ってくることと、確実な定着が必要となってきそうだ。
菊池さんは「今でも作業した場所を通った時には『前にここでやったな』と思うこともある。みんなが必要な電気を送ることへの縁の下の力持ちとして携われるやりがいを感じる仕事はなかなかない」と胸を張る。佐藤さんも「自分が携わった鉄塔が何年も残ることはとても誇らしい仕事。手に職を持て、日々成長を感じることができ、やって良かったと心から思っている」と話す。
知っているようで知らない電線の上での仕事。上空でのさまざまな格闘は私たちに今日も電気を届け、便利な日常を送らせてくれている。