イスラエルと米国がイランに対抗するためには、このような代理勢力を維持するコストが高くつくことを分からせなければならない。そのためには効果が不十分な空爆では無く、より積極的にイランと代理勢力の要人を暗殺する必要がある。
また、イランは資金を持っているが、イランに対して制裁の拡大、油価の低下等のマクロ経済政策的な対応を行うことで代理勢力を支援することを困難にすることが出来るだろう。
問題は、イランの術中にどれくらい米国が嵌まっているかである。昨年の10月7日以降のイランの攻撃に対して米国は真剣に対応して来なかった。バイデン政権は、イランが代理勢力をコントロールしていないと嘘を言い続けて来た。その結果、米国は、麻痺状態に陥り、ただ、イラン側が圧力を強めている。
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米国とイランの中東情勢への微妙な関係性
1月にイランの代理勢力の攻撃で米軍兵士3人が死亡し、米軍が大規模な空爆で報復して以来、この論説を含めて米軍は中東から撤退するべきか否かについて議論がなされている。そもそも、2000年代初めのシェール革命で米国の中東産原油への依存度が劇的に低下し、その結果、米国の対外政策の中で中東の重要度が下がったことから米国の中東撤退論が出てきているのであり、バイデン政権下でアフガンスタンからの撤退等中東からの撤退が加速化していたところに昨年の10月、ガザでの衝突が始まった。
イラン側は一貫して外部勢力(米国)の排除を主張しており、ガザの衝突を契機に代理勢力を動員して米軍に対する挑発を高め、出来れば米軍を撤退させたいという思惑がイラン側にはあるであろう。しかし、より直接的には、これまで散々ハマスを支援してきて、今回、イスラエルとその後ろ盾の米軍と衝突するのが怖いのでハマスを見捨ててしまってはイランの面子が潰れるので何もしないという訳には行かないので、米軍と直接衝突に至らないよう慎重に計算した上で代理勢力を動かしているという事情の方が大きいと考えられる。
米国は、米軍の撤退により動揺しているアラブ産油国を安心させるためにイスラエルをこれらの諸国の安全保障に一枚噛ませる。そのためにはイスラエルとアラブ産油国間の関係正常化が必要なので、昨年、必死になってイスラエルと大国サウジアラビアとの国交樹立に奔走したが、今回のガザの衝突でこの戦略は当面、困難になったと思われる。