2024年4月29日(月)

Wedge OPINION

2024年3月21日

 日本銀行がマイナス金利を解除し、政策金利を引き上げることに決めた。日銀が利上げするのは17年ぶりで、日本は再び「金利のある世界」へと踏み出す。ただ、「金利のある世界」を経験がない若い世代には、マイホームの住宅ローン金利など、不安が付きまとうだろう。企業も同様かもしれない。今、必要なことは、金利を恐れるだけでなく、適切な価格転嫁と設備投資、そして賃上げの流れを大企業のみならず中小企業ヘと広めていくことで、「賃金と物価の好循環」を生み出していくという思考の切り替えと不動の決意である。2024年2月29日に掲載した「【春闘の行方】「賃金は上がらないから我慢して働くべき」という時代は終わった「賃金と物価の好循環」で間もなくやってくる「金利のある世界」に備えよ」を再掲する。

 世の中には「社会通念(ノルム)」というものがある。「こうあるべき」「こうあらねばならない」という人々の暗黙の了解であり、それらは時に(強力な)社会の規範にもなりうる。

モノの価格の上昇は一服したが、今後も乱高下し得る。日々の暮らしのために持続的な賃上げが不可欠だ(PHOTO BY KYODO NEWS/GETTYIMAGES)

 日本社会でこれが典型的に表れていたものの一つが賃金と物価(の抑制)である。「賃金が上がらないのは当然だから我慢して働くべき」「企業はいいものを安く売るのが当たり前だから1円も値上げしてはならず、物価は据え置かれるべき」──。こうした人々が当たり前だと思っていた意識が昨今、急速に変化し、20年にもわたるデフレの時代から、インフレの時代への転換が本格的に始まろうとしている。

 日本の物価は2022年の春から上昇し始め、22年末の消費者物価指数(CPI)は4%を記録した。消費者物価は食料品などの生活必需品に該当する「モノ」と、飲食やホテル、医療、娯楽、交通などに該当する「サービス」に大別される。

 日本のインフレは海外から輸入した原材料やエネルギー価格の上昇が原因であり、企業がそれを価格転嫁したことでモノの価格が上昇した。輸入物価の上昇はすでに一服し、23年8月から9月をピークに少しずつインフレ率が下がり始めている。輸入物価の上昇は、果てしなく続くものではない。

 一方、サービス価格も上昇している。サービスの原価は人件費の割合が高く「賃金の塊」とも言われており、輸入価格上昇による影響は限定的で、当初はそれほど伸びなかった。ただ、コロナ禍明けのインバウンドや国内旅行需要の増加によって、宿泊料金などのサービス価格は上昇しており、サービスのインフレ率はモノと同程度になっている。昨今の人手不足もあり、今後はじわじわと上昇していくだろう。

 23年はインフレを起こす〝主役〟がモノからサービスに移行した年であり、今年はさらに顕在化し、インフレが緩やかに持続していくはずだ。


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