2024年5月14日(火)

Wedge OPINION

2024年3月21日

「異端の国」から脱却し
「まともな国」になるために

 今年の春闘を経て、「賃金と物価の好循環」が実現する確度が高まれば、日銀のマイナス金利解除が現実味を帯びてくる。実際、日銀の関係者やエコノミストは、今年の前半には金融正常化に向かうと予想している。しかし、金利上昇がゼロ近傍にとどまるようでは、「異常」であることに変わりはない。急速な利上げは現実的ではないし、日銀も正常化後に物価と賃金の動向を丁寧に点検するだろう。その上で、金利も2%以上に上昇させていくロードマップを早々に打ち出すべきだ。

 これまで賃金と物価をセットにして語ってきたが、本来のあるべき姿は、それらに金利も加えた「3点セット」が三つ巴となり、バランスがとれている状態だ。賃金・物価・金利が全て2%以上となることで、日本は賃金も物価も上がらず、金利もゼロという「異端の国」からようやく脱却し、「まともな国」になれる。

 図は、世界の主要国について、各国の中央銀行が最も重視する金利である「政策金利」の高低を順位付けしたものだ。日本は00年以降、ほぼ一貫して最下位かその近くだ。日本がいかに異端だったかがよく分かる。

 現代の日本人は「金利のある世界」を知らずに今日まで生きてきた。特に若い世代は、銀行預金や住宅ローンで超低金利以外の経験はほとんどないだろう。そのため、金利の上昇を不安視している人もいるかもしれない。しかし、この流れは不可逆的である。「金利ゼロ」という異常な状態には戻らないことを前提に、これからの日常生活を考え、これまでとは異なる家計管理のプランを立てる必要がある。

 例えば、マイホームを購入する場合、今までは変動金利の住宅ローンを低利で組むことができたが、今後は金利上昇のリスクに無頓着ではいられない。今のうちに固定金利のローンへの借り換えを一考しておくべきであろう。

 企業経営者も同様である。これまではゼロ金利の下で多額の資金調達を行い、設備投資できたが、今後はゼロ金利に戻らないことを前提にするべきだ。中小企業は労働生産性向上に真剣に取り組まなければならない。信用力の高い企業は低金利で資金調達でき、そうではない企業は少し高めの金利で資金調達せざるを得ないという競争原理が働く社会に戻る可能性がある。

 金利が上がることへの人々の不安は根強いものがある。ただし、金利が上がっても、同時に賃金が上がっていけば、生活困窮に陥るリスクは低減される。賃金と物価が緩やかに上がる経済に移行し、それに伴って金利も上がるというのはごく自然なことだ。金利の上昇を災いのように受け止めるのは筋違いだ。金利の上昇は日本経済が正常化するプロセスで起こることと、前向きにとらえるべきだ。

 労働者にとって、賃金が上がることは働く上でのモチベーション向上になる。また、企業にとっても価格を上げられる環境があれば、新しい商品開発や設備投資への強い動機付けにもなり、企業活力の向上と成長への源泉にもつながる。

 今年の春闘はあくまで通過点に過ぎない。引き続き、いかに賃上げトレンドを持続させていくかを視野に入れるべきだ。そのためにも、消費者や中小企業が「物価が上がる社会」を受け入れ、その機運を国民全体で盛り上げていくことが求められている。(聞き手・構成/編集部 鈴木賢太郎)

   
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Wedge 2024年3月号より
ジェンダー平等と多様性で男性優位の社会を変えよう
ジェンダー平等と多様性で男性優位の社会を変えよう

「育児休暇や時短勤務を活用して子育てをするのは『女性』の役目」「残業も厭わず働き、成果を出す『女性』は立派だ」─。働く女性が珍しい存在ではなくなった昨今でも、こうした固定観念を持つ人は多いのではないか。 今や女性の就業者数は3000万人を上回り、男性の就業者数との差は縮小傾向にある。こうした中、経済界を中心に、多くの組織が「女性活躍」や「多様性」の重視を声高に訴え始めている。

内閣府の世論調査(2022年)では、約79%が「男性の方が優遇されている」と回答したほか、民間企業における管理職相当の女性の割合は、課長級で約14%、部長級では8%まで下がる。また、正社員の賃金はピーク時で月額約12万円の開きがある。政界でも、国会議員に占める女性の割合は衆参両院で16%(23年秋時点)と国際的に見ても極めて低い。

女性たちの声に耳を傾けると、その多くから「日常生活や職場でアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見)を感じることがある」という声があがり、男性優位な社会での生きづらさを吐露した。 

3月8日は女性の生き方を考える「国際女性デー」を前に、歴史を踏まえた上での日本の現在地を見つめるとともに、多様性・多元性のある社会の実現には何が必要なのかを考えたい。 


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