2024年5月9日(木)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2024年3月25日

 世界一豊かな社会を実現した1950年代の米国は、コンセンサスの時代と言われた。そこでは米国的政治体制や米国的生活様式に疑問を呈したりしなければ、世界一の豊かさを享受することが出来た。

 第二次世界大戦の被害が大きかった日本やヨーロッパ、あるいは第三世界では、日々の食事にも事欠く中にあって、米国のスーパーマーケットには色とりどりの食品が山と積まれていた。実質賃金は右肩上がりに上昇し、昨日よりも今日、今日よりも明日がより豊かであることに疑いを差し挟む者はいなかった。

 しかし、60年代から70年代にかけて、この体制への信頼は大きく揺らいでいく。自由主義体制を「邪悪な共産主義」から守るためとして時の政府はベトナムに介入していった。しかし、米国兵がベトナムの村々を焼き払い、現地の子どもたちが裸で逃げ惑う映像が米国のお茶の間に流されると、自分たちの体制は果たして正義の側に立っているのだろうかという疑問が生じた。

秩序とカオスを交互に見せるスターウォーズの世界

 そして若者を中心に米国内では激しいベトナム反戦運動が巻き起こった。その動きは、人種差別をなくそうという公民権運動と重なり、大きなうねりとなっていった。しかし、国民は選挙で、何よりも秩序を重んじるリチャード・ニクソンを大統領に選び、そして、歴史に残る地滑り的勝利で再選させた。ルーカスは次のように語っている。

 私が[スターウォーズを最初に書き始めた]時はベトナム戦争中だった。ニクソンは三期目を狙っていた、あるいは三期目を狙うために憲法を変えようとしていた時だった。そして、民主主義がどのようにして独裁に変わるのかについて考えさせられた。

 ニクソンは、「帝王的大統領制」と言われるほどの権力を手にしたものの、それに飽き足らず、その地位をより盤石なものにするために犯罪にまで手を染めていき失脚する。先の発言に続けてルーカスは、シーザーを殺したローマ市民が自ら帝政を創り出し、ルイ16世を断頭台に送ったフランス人が、ナポレオンを求めたと語り、如何に人間というものがカオスを嫌い秩序に傾き易いかを強調している。

 スターウォーズの物語では、秩序とカオスが交互に現れる。不安定な共和国が内戦をもたらし、その混乱の中で帝国の秩序が生まれる。その帝国はレベル(反乱軍)によって崩壊する。

 その後、共和国が生まれ、その不安定な混乱の中、帝国の残党が創り出した抑圧の体制であるファースト・オーダー(秩序)が登場する。このような秩序とカオスの反復の中では、楽な方を選ぶ人間の本質が暴露される。それを乗り越え、多様性に満ちた調和を得るためには、一度はすべての体制を破壊しなくてはならない。しかしそれはすなわち、カオスがもたらされる恐怖をも意味することになる。

米国民主主義とヨーダが表象する世界

 秩序の破壊をもたらすために投入されるのが、ジェダイの長老ヨーダである。ただ、ジェダイはカオスの到来を目的として登場するのではない。むしろ、ジェダイはカオスの否定を旨とする。

 そのことはジェダイの行動規範である「ジェダイ・コード」の中に「カオスはなく、調和がある」とカオスを明確に否定する条文が存在することからもわかる。カオスの危険性を知っているからこそ、わざわざそのようなコードが必要なのだ。

 秩序を破壊するカギとなるヨーダは、秩序に屈服するのではなく、よりよい秩序を創造するために、人間はカオスを恐れずに進まなくてはならないことを示している。ヨーダはよりよい世界を創り出すために体制を突き崩そうとする。


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