それは秩序によって人間性が壊されるのを防ぎたいのであり、ヨーダが目指すのは自由になった個性豊かな多文化が調和して共存する世界である。ただ、異なるものが共存する世界は脆弱であり、多様なものが調和の中で繁栄するのはとても難しく、それが永続する社会をルーカスも描けていない。
これを現在の米国に重ねるなら、同性婚や人種平等などの多様性を認め、アフリカ系の大統領まで誕生させた米国民主主義の歩みは、微妙なバランスの上にのった危ういものにならざるをえないということになる。そこに登場したトランプは、今一度米国にかつてのような秩序をもたらす者にも見え、あるいはまだ確固たる安定性を築いていない多様性の破壊者にも見えた。
「第三作」のトランプは来るのか
民主党支持者たちは、トランプをスターウォーズにおける邪悪な皇帝であるとみなし、一方で、正義の反乱者ともいえる自分たちが、最終的に勝利すると考える。すなわち白人至上主義者を支持し、自分の価値観を共有しない者たちの排除を試みるトランプを、米国的価値観の破壊者とみなすのである。
しかし、トランプ支持者たちは同じスターウォーズの中に全く違った世界を見ている。旧来の米国社会の主流を構成していた人々をないがしろにする悪を正すための救世主としてトランプを捉えているのである。
トランプ支持者にとって、ルーカスが最初に作り上げたスターウォーズ三部作は救世主トランプの物語だといえる。スターウォーズのオリジナル三部作において、第一作目の『新たなる希望』で、救世主トランプが登場し悪の帝国に大打撃を与える。これがトランプ政権の一期目である。
次に、第二作『帝国の逆襲』で、バイデン率いる悪の帝国が盛り返す。これが現在のバイデン政権に相当する。
そして、第三作『ジェダイの帰還』で、再びトランプが勝利する。これが2024年11月の選挙でのトランプの勝利を意味する。トランプ支持者にとってバイデンこそが邪悪な皇帝なのである。
最近、トランプは自らが民主主義を体現しており、バイデンこそが民主主義の破壊者という主張を強めている。そして、そのような主張はトランプ支持者に広く受け入れられ始めている。
大統領選挙は米国をどこへ導くのか。これまでの常識が通用しないカオスの世界なのか、それとも多様なものの共存を許す調和のとれた新しい世界なのか。
役回りの中で一つ分かっているのは、レベルを自認する民主党支持者にはヨーダという救世主がおらず困っているということだ。米国が今後どのような物語を紡ぐのか、それは冒頭の言葉について米国国民が何を求めているのかにかかっている。