しかし日本の中国専門家の間からは、極秘訪日があった9~10月にかけて中国政府の対日政策に微妙な「変化」が表れたとの見方は出ていた。
尖閣諸島沖の日本の接続水域での航行や領海侵入を繰り返した中国海警局の海洋監視船「海警」の動きが鈍くなったのだ。
9月19日に2隻が領海に侵入し、同日、接続水域を離れると、4隻が領海に入ったのは8日後の27日。その後接続水域を航行し、10月1日にまた領海に侵入。2日に接続水域を離れると、次に同水域にやって来たのは19日で、実に17日ぶりだった。領海を侵犯したのは28日で、26日間も侵入がなかったことになる。
これは日本に対する一定の柔軟な「メッセージ」ではないか、という期待感が日本側からは相次いだ。9月24日には中国経済界首脳約10人が来日し、菅義偉官房長官とも会見した。経済界訪日団に参加した企業の関係者は「会社のトップの意向で決まった」と明かす。つまり党・政府からの指示があったとの見方が強いのである。
外務省高官の極秘訪日
ちょうどその時期に行われた副局長の極秘訪日と日中協議だが、結論から言うと、尖閣諸島をめぐる「異なる立場」を認めるよう促した中国側の提案を日本側は拒んだため、交渉は平行線をたどったもようだ。
中国政府は、「私の対話のドアは常にオープンだ」と繰り返す安倍晋三首相との首脳会談に関しては「環境整備」が必要と考えている。つまり習近平なり首相・李克強が安倍と会談する前に、外交レベルで尖閣問題に関して「コンセンサス」が不可欠との結論に達している。
しかしコンセンサスを作るための外交レベルの交渉は一向に進んでいない。複数の中国政府幹部によると、中国側が持つ不満は以下の2点に集約されている。
「安倍首相の対中強硬発言は雰囲気を壊している」
「安倍首相を中心に官邸主導のため外交交渉が進まない」