ただし、この資源で国内的な資源評価を行っている水産研究・教育機構によると、この漁獲枠の削減によって太平洋のマサバ資源が目標とされる健全な水準に回復する確率は48%と半分に満たないと推定されている。「五分五分」に満たないのである。加えて、この資源評価自体についてもこれまでも下方修正されており、その信頼性については今回のNPFCを受けて開催された説明会でもサバ漁業者から不安の声が上がっている。
さらに言うなら、直近のデータが判明している22年漁期については、漁獲実績は13万7000トンに満たない。漁獲枠が実勢に合わないと考えているのか、予定されている35万3000トンという漁獲枠のうち2割は国の留保分とし、実際に漁業者に配分されるのは残りの8割つまり28万2400トンなのだが、これにしても直近の漁獲実績の倍以上である。
望まれる予防的措置
NPFCを設立した北太平洋漁業資源保存条約では「公海と排他的経済水域で一貫性のある措置を取れ」と定めるとともに、「情報が不確実、不正確または不十分である場合には、一層の注意を払え」と定める国連公海漁業協定に従うかたちで「予防的アプローチ」を取るよう求めている(第三条(c))。NPFCではサバに関する資源評価はまだ完了しておらず、今回採択された措置は暫定的なものであるとされており、一応予防的アプローチに基づくものとも解される。
とするならば、日本としてはより予防的に、資源が確実に回復する可能性をより高める措置を取るべきではないか。現状の漁獲実績を大きく超え、目標到達確率が「五分五分」にも満たない漁獲規制では、十分に予防的とは言えない。
まずは国内で大胆な漁獲枠の削減をとるべきである。そしてそのうえで、「われわれはこのように大胆な漁獲規制を行った。ついては、条約に定められているように、皆さんも一貫性のある予防的な措置を取るべきだ」と主張するべきではないだろうか。
同時に望まれるのは科学的知見の拡充である。NPFCを受けた漁業者説明会でも、資源評価が重要であるにもかかわらず、国の資源評価に関する予算が50億円程度に過ぎず、しかも前年と比べて削減されていることに関して漁業者からも懸念の声が上がっている。予算の大幅増は必須であろう。
サバはサンマとともに、否、サンマ以上にわれわれ一般に広く食され愛されてきた魚である。サバがサンマの二の舞にならないためにも、日本がリーダーシップを取り保全管理を行うことが、今必要とされているのではないだろうか。