インフレが引き起こす市民生活への打撃は、ソ連崩壊後のハイパーインフレの記憶を持つ人々に強い心理的影響があり、過去にも繰り返し政権への脅威となっていた。プーチン政権が最も注意せねばならない経済指標とされる。
米政府は攻勢を強める
金融分野だけではない。米政府は5月1日には、ロシア軍がウクライナ侵攻で化学兵器を使用したと正式に表明し、ロシア政府の3機関と企業4社を制裁対象に加えた。ロシアが化学兵器禁止条約に違反して、化学兵器のクロロピクリンを使用したと断定したという。
実際にロシアが化学兵器を使用したかをめぐっては、ロシア側が認める可能性は極めて低く、確定的な結論を得ることは困難だ。しかし、米政府が正式承認したことは、米国以外の国々も、同問題をめぐり米国と歩調を合わせることを意味する。ロシアの軍事産業に対し、制裁を通じた国際的な締め付けが、さらに強化されるのは必至だ。
米議会は4月、ウクライナに対する約610億ドル(約9兆円)の支援を含む追加予算案を、超党派の賛成多数で可決した。約半年にわたり停滞していたウクライナに対する軍事支援が再び本格化することになる。
欧米諸国の対ウクライナ軍事支援はこれまで、中国などによる貿易を通じた事実上の対ロシア支援により、十分な戦果につながらなかった。新たな支援にもかかわらず、戦況を好転できないような事態になれば、11月の大統領選で再選を目指すバイデン政権にとり、取り返しのつかない打撃になる。そのような事態を避けるためにも、制裁の抜け穴を徹底的に塞ごうとする米政府の意図が浮かび上がる。