「人間は砂漠に生える草ではない!」
──フリーランスのジャーナリストから見た、昨今のメディア業界をどう評価されていますか。
出井 質問とズレますが、「新聞配達」問題について少し触れさせてください。今や新聞の配達現場はベトナム人など留学生アルバイトなしでは成り立ちません。留学生の労働は週28時間以内に制限されていますが、朝夕刊を配れば28時間では足りない。しかし販売店は、28時間を超えた分の残業代を払わない。払えば40時間、50時間働かせた事実を認めてしまうことになるからです。だから留学生たちは違法就労と残業代の未払いに耐えるしかない。
そんな状況を生み出したのが、リベラル派と評されるある大手新聞社です。私はそれを10年も前から繰り返しただしているのですが、この新聞社は「取引先の問題だ」とまともに取り合わない。「販売店とうちには資本関係はなく、違法就労や残業代の未払いは店のせい」というロジックです。それで紙面では「多文化共生」「外国人の人権を守りましょう」と訴える。まさにダブルスタンダードです。
──社会正義を謳う新聞社がそんなことをしているとは、まさに「貧すれば鈍する」と言えます。
山田 逝去されたノンフィクション作家の佐野眞一さんにかつてインタビューをした時のことです。「ノンフィクションの現在地」という話になった時、隣にいた若い編集者が「それにしても、いまの若い書き手はろくな人がいませんよね」って言ったんです。そしたら、佐野さんが「あなたは書き手を育てたことがあるのか?」と激怒し、こう言ったんです。
「人間は砂漠に生える草ではない!」
正鵠を射た指摘で、今でも心に残る言葉です。
そういう意味では、ネット時代になって原稿料がどんどん下がっています。そうすると勉強して、インタビューをして、テープ起こしをして、それを記事にまとめるという作業量、自分が投入するスキルを考えたときに、やっぱりそれは「砂漠に生える草ではない」と言いたくなってしまいます。記事のクオリティーもますます下がっていると言わざるを得ません。
小林 大手ポータルサイトの影響力も本当に大きいですよね。保育園の問題で一緒に特集記事をつくろうという話になってスタートさせたのですが、だんだん私の考えていることと、先方の編集部が考えていたことが真逆であることがわかってきたのです。そこにあるのはやっぱり「PV(ページビュー)至上主義」というものだと思います。
資本力もあるので「原稿料は支払いますから、なんとかやってください」と言われましたが、お断りしました。
山田 知り合いのカメラマンから聞いたのですが、1日1万円の撮影料が5000円になったと。
その時、彼は「これって相場観が全くないですよね」と、あきらめに近い様子で言っていました。プロフェッショナルである彼が1日仕事をして、プロのスキルを投入して、写真を撮って、それで5000円……。
やっぱり誇りを持って、その仕事をやっている人たちが、プロとして、最低限の生活が成り立つ金額が相場観だと思うのです。「金額に納得できないなら代わりは他にいる」といったスタンスで、支払わなかったら、カメラマン自体、ますますなり手が減っていくことになるでしょう。