2024年6月27日(木)

令和の日本再生へ 今こそ知りたい平成全史

2024年6月5日

──実際に働く人がお金を払い、仲介する人が儲けているという構図ですね。おかしな話です。

山田 先ほど話した長い間、派遣社員として働いていた知人よると、その人を派遣してもらうために、派遣先の会社は派遣会社に1時間2500円くらい支払っていたそうです。その人の時給は1500円ちょっとなのにと、愚痴を言っていましたが。

 あるとき、派遣先の会社が「時給を50円アップします」という提案を派遣会社にしたそうです。2年くらい働いて、たったの50円ですよ。しかも、50円アップのうち、派遣会社が「30円寄こせ」と言ってきた。それでもう頭きて徹底的に抗議したら、派遣会社のほうが折れて50円はもらえたそうです。そればかりか、派遣社員から正社員になる際、派遣会社が「足抜き料をよこせ」と言ってくるケースがあるそうです。まるで江戸時代の芸者か、と言いたくなりますよ。呆れてものも言えません。

出井 外国人労働者も一緒なんです。企業側には、「実習生は安い」というイメージが浸透してますが、受け入れている農家や中小企業も、監理団体などへの支払いで結構な費用がかかっています。

小林 看護師、保育士などでは「人材紹介」という形になっていますね。そうした現場では、人員の配置基準があるから絶対に人が必要になる。そういう紹介会社にお金が落ちることになるから、本来支払われるはずの看護師、保育士の人件費分から中抜きされていくのです。

 こういうことをしているから、経営者や企業の人事部から「人材の目利き」がいなくなりました。それが平成という時代の特徴でしょう。

山田 先日、あるコンサルの人から驚愕の事実を聞いたのですが、「サジェストワード検索」というものがあるそうです。検索エンジンの検索窓に「◯◯会社」と書き込むと、それに続いて「評判」「倒産」「ブラック企業」などといった言葉が並ぶのです。それをクリックすると、その会社の悪評が書かれている。そして決まって、検索ページの下には転職会社の広告が表示される。そうやって転職を煽るわけですよね。転職が繰り返されることで、転職会社は儲かる仕組みになっている。彼らは何も生み出していないのに……。

出井 技能実習でいうと監理団体はものすごく儲かるわけですね。 実習生の数は約40万人ですが、月5万円の手数料を取っていると年2400億円ですよ。約3700の監理団体が2400億円を山分けしているわけです。メディアが「悪い監理団体がある」と騒ぐので政府は数を減らして監視を強めようしていますが、そうすると大手に利権が集中する。大手の団体ほど、政治力がありますからね。派遣にしても、外国人労働者の受け入れをめぐる現状を見ても、日本を良くしたのか悪くしたのかというと、結果的に僕は良くしていないと思います。

山田 出井さんの戦うべき戦場は日本国内にありますね!

出井 そうですね。戦争とは違った意味で、複雑に利権が絡み合うややこしいテーマだと思います。

続く〝身分差別〟

──それでは、解決に向けてはどのようなことが必要なのでしょうか? ロスジェネ世代の問題があります。

小林 雇用については、例えばもう「9割は正社員」ということに戻すべきだと思います。正社員でなくても、社会保障はきちんとするとか、同一賃金同一労働を徹底する。安定した雇用のもと、いろいろな力を身につけるような土壌を作らないと、日本は立ち行かなくなります。

 ロスジェネは極めて深刻な問題です。なぜなら、彼らはあと10年もすれば60代に突入します。就職支援だけではなく、健康を維持することも考えないといけない。健康を崩して働けなくなれば生活保護に直結します。だから、いますぐにでも、雇用が不安定なロスジェネ世代の調査を徹底してするべきです。

山田 僕も契約社員をやってみて一番腹立たしかったのは、「同じことやっても給与の額が違う」ということですね。確かに、身軽なポジションでいつでも辞められるし、嫌だったら職場を移れるというのは、僕みたいな性格の人間にとっては悪いことじゃない。でも、そうじゃない人もいる。やっぱり同一賃金同一労働っていうことは実現する方向にしてほしい。

 それから、労働者としての「言葉」というか、職場での「発言権」を大切にしてほしい。非正規には、それがないんですよ。仕事はたくさんさせるのに、「この仕事のやり方をちょっと変えたらいいじゃないですか」と提案したら、「派遣の人は別にそういうのはいいから」と言われてしまう……。

 ある種の〝身分差別〟です。多くの派遣の人がそう思っているのではないかと思います。やっぱり、雇用形態にかかわらず、対等に喋れるというカルチャーを作っていかないと、それがないとみんなね、結局その会社は企業の力を高めるために人件費を節約したつもりかもしれないけれども、働く人間は間違いなく意欲を失います。

出井 「労働人口が減っていくので、外国人で補わないと、今までのサービスが維持できなくなりますよ」と、脅迫するような論調が目立ちます。

 低賃金の労働力を欲する産業界がそう言うのはわかりますが、そこにはメリットとデメリットがあることも考えなければならないと思います。

 例えば、いわゆるリベラル派は「多文化共生」だから、外国人労働者の家族帯同を認めてあげましょうと主張します。そんな美しい理念、美しい言葉は世論を味方につけますが、外国人労働者を安易に移民にした結果、社会にツケを回すことになりはしないのか。日本に連れてこられる配偶者や子どもは日本語が全くできません。そもそも労働者本人からして上手くない。日本語ができなくても、食品製造工場などのように働ける職場はいくらでもありますよ。でも、親の都合で日本に連れてこられた子どもたちが、幸せに暮らせる環境が整っているのでしょうか。

小林 おっしゃる通りで、小学校、保育園など、負担は現場に押し付けられるだけですね。

出井 そうなんです。どこまで外国人頼みを進めるのかという問題もあります。台湾では、介護の仕事は外国人しかやりません。そんな状況を日本でもつくるべきなのか。きちんと議論する必要があります。

小林 コンビニの店員は外国人ばかりなので、子どもたちがそこで働こうとは思わないといった影響が出てくるかもしれませんね。


新着記事

»もっと見る