2024年12月3日(火)

Wedge REPORT

2023年12月25日

 近ごろアニマル・ウェルフェア(Animal Welfare/以下、AW)という言葉をよく耳にするようになった。

「平飼い」で飼育される井上養鶏場(神奈川県相模原市)の鶏(WEDGE)

 直訳すれば「動物福祉」ということになるが、主に採卵鶏のバタリーケージ(金網でできたケージ)での飼育や、養豚における妊娠ストール(母豚を単頭飼育する狭い檻)の残酷さを非難し、鶏の平飼いや牛豚の放牧など、動物の福祉を向上させる飼育方法を推奨するムーブメントとして紹介されている。

 動物の福祉の向上に異を唱えるつもりはないが、このAW、筆者にはいまひとつピンときていない。喫緊の課題という実感が乏しいのである。

 実際、わが国はAW後進国であるといわれている。採卵鶏においてすでに欧州連合(EU)では禁止されているバタリーケージの使用率が約94%と極めて高く(2020年・国際鶏卵協会)、20年に世界動物保護協会が発表した動物保護指数の畜産動物分野で、経済協力開発機構(OECD)加盟国中唯一、E評価を受けている。

 どうやら日本は世界有数の「動物虐待国家」らしいのだが、果たしてわれわれは本当に残虐な国民なのだろうか。

AWの原点
「アニマル・マシーン」

 少々歴史を紐解いてみると、AWの原点には一冊の本が存在している。1964年に英国で出版された『アニマル・マシーン』(ルース・ハリソン著、講談社)である。題名が示唆するように、ハリソンは動物があたかも機械のように工場で生産されている状況を告発して、一大センセーションを巻き起こした。

 出版の翌年には、英国議会が工業的畜産について調査するブランベル委員会を立ち上げて、家畜の虐待に警鐘を鳴らす事態に発展している。

 このブランベル委員会の報告書は、現在、国際獣疫事務局(WOAH)がAWの国際基準の核に据えている「5つの自由」(左表)の原型であり、EUでは97年に「動物の保護と福祉に関する議定書」を作成し、2012年には、バタリーケージの使用を禁止している。つまり欧州におけるAWは、1960年代に発火点を持ち、そこから60年にも及ぶ長い歴史を持った運動なのであり、昨日今日始まったムーブメントではないのである。

 では、米国はどうか。AWに詳しい東京農工大学の新村毅教授によれば、米国では法的規制よりも、大企業がAWを主導する流れが強いという。

 「米国ではマクドナルドなどのグローバル企業、約300社がケージ卵を平飼い卵に切り替えると宣言してAWの流れが加速している。動物保護団体の抗議行動が激しかったこともあるが、動物保護を謳う企業は投資を受けやすくなるという背景もある」

 新村教授によれば、お隣韓国もケージ禁止ではないもののケージに入れる羽数を制限する法律を施行しており、グローバルなAWの潮流にアジャストするスピードが速いという。

 どうやら日本が「AW後進国」であることは間違いないらしい。


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