勃興する半グレの存在
形が見えない組織の様相
親分―子分関係は、親の言うことはたとえ白でも黒が通るような不合理な世界である。子分には修業時代があり、無給で親分や兄貴分のために働かなければならない。だから堅気時代の先輩─後輩関係などを基本にする半グレの方がよほど肌になじみやすい。しかも半グレを規制し、罰する法律や条例はなく、暴力団対策法(暴対法)や暴排条例で雁字搦めにされている暴力団より、よほど自由な生活を許されている。
逆にいえば、盃で縛る擬制血縁関係はすでに時代遅れで損、半グレはヤクザに比べれば得ばかりだから、今の隆盛は当然かもしれない。
暴力団の組によっては、若手の志望者をあえて未登録で通す場合がある。組に登録すれば、組に近づく警察官にいずれ組員と知られてしまう。そうなると身辺を洗われ、若い者が最初から辛い目に遭う。だから秘密組員で通すという理屈である。
暴力団には回状というシステムがあり、同業者間で「組員何某を今回、絶縁処分にした、今後、この者と商談するな、交際するな、拾うな」などと通知し合う。こうした通知は組事務所に一定期間掲示されるし、保存もされる。担当の警察官が見ることはたやすく、いわば暴力団の人事情報などは警察に筒抜けなのだ。
警察に組員と知られたら最後、その者は(5年間どころか実際には)生涯、暴力団の組員と烙印を押されたのと同じになる。だからいわば親心として新規入組者を組員登録しないのだが、これは組員のアングラ化を意味する。
他方、半グレの方は1ジョブごとに組む相手を自由に変える。おまけに同業者とのつながりなどはないから、組織とメンバーの情報はほとんど外部に出ない。例えばオレオレ詐欺を強行するとして、被害者候補に電話をかけ、だますかけ子は組織のいわば心臓部である。間違っても逮捕されてはならない。これに対して被害者に直接会い、現金なりキャッシュカードなりを受け取り、暗証番号を聞き出す受け子、出し子は使い捨て要員である。事実、彼らは詐欺業務の中で警察や被害者の「だまされたふり作戦」などで逮捕されやすい。そのため受け子、出し子はディープウェブ(注・検索エンジンからのアクセスができないウェブサイト)などで闇バイト要員として募集を掛け、その都度雇い捨てにする。彼らには犯行計画の全容を伝えず、たとえ逮捕されてもその供述から警察が突き上げ捜査できないようにしている。