暴力団は親子盃を特徴としている。擬制血縁関係といい、赤の他人が盃により親─子の関係を結ぶ。ある親の子は全て兄弟分となり、新旧で兄貴分や舎弟に区分される。親分の兄弟分は子分にとっては叔父貴になる。そのメンバー(組員)はそれぞれが自営業者といってよく、親分や兄貴分に教えられ、それぞれのシノギを始める。兄貴分にシノギを手伝ってもらったりすることはあるが、組全体が一丸となって特定のシノギに総当たりすることはほぼない。ただ覚醒剤専業の組は別で、組員のおおかたが密売に従事する。
子分はシノギを覚え、親も手に余す不良の自分がこうして食えるようになったのは親分や代紋(いわば組のバッジ)のおかげというわけで、親分(組)に月の会費(定額)を差し出す(他に臨時出金もある。2つを併せて警察は上納金と呼ぶ)。
暴排条例がもたらす影響
組員のアングラ化とは
バブル盛期、地上げを手掛けるヤクザの中には億というカネを握った者がざらにいた。中堅層以上では株でも儲けた。だが、バブルが弾けると、ほぼ全滅状態になり、11年までに全都道府県で暴排条例が施行されると、ますます窮乏化した。
同条例は暴力団と一般社会の分断を主目的に据え、例えば暴力団への「利益供与の禁止」を規定した。みかじめ料の支払いなどもってのほかで、一時は飲食店の出前や宅配便の発送、配達も禁止という騒ぎになった。また条例と共に、全国銀行協会などの業界ごとに「暴排条項」も定められた。これにより組員は新規に銀行口座を開設できない、組をやめて5年以内の者は組員と同じように扱うなどの規則を盛り込まれた。
組員が組をやめて普通の会社に就職しようにも、給与振り込みの口座さえ作れないので就職できない、スマートフォンや車が欲しくても月払いの購入を拒否される、ETCカードを持つことができず、高速道路の利用も不便を強いられ、アパートを賃借することもできない、ゴルフ場の利用時に「組員である」にチェックを入れなかったので事後、詐欺で逮捕されるなど、組員の人権を否定するようなトラブルが各地で相次いだ。
暴力団はこうした暴排傾向にほぼ無抵抗で、ほとんど裁判に訴え出ていない。一握りの上層部以外は困窮化し、また高齢化している。ヤクザはカネがないから見栄を張りたくても張れず、若年層にとってはカッコ悪い、みじめだ、「ああはなりたくない」存在と映っている。そのため若手の志望者はほぼ消失し、暴力団の高齢化に拍車を掛けている。