ルフィ強盗事件は22〜23年、日本の各地で発生して、広く知られている。首脳部はフィリピンにかけ子を集め、国内ではSNSによる闇バイト募集で受け子を集め、東京都狛江市では90歳の高齢女性を暴行して殺す強盗殺人事件さえ起こした。つまり彼らは闇バイトで殺しまで引き受ける若者を雇うことができた。バイトに応えたのはカネに詰まって率のいいバイトを探していた貧乏で堅気の若者だった。彼らは半グレにさえなっていない。
彼らの日頃の動きがこうだから、警察は彼らの組織やメンバーをデータベース化できない。暴力団に対してはほぼ完璧に把握できているが、対照的に半グレではデータなし状態が続く。暴力団については法的な定義ができ、それを暴対法に結実させている。だが、半グレは定義しようがなく、半グレに対して特別法を準備することも難しいだろうと見られている。
半グレ、暴力団ともに
警察は取締りの再検討を
暴力団の中堅層以下は再三述べたように貧窮化し、元ヤクザになって生活保護を受給するケースは珍しくない。また衣食住がまともに提供されるからという理由で刑務所を終の棲家にと考えるヤクザもいる。そのためせっかく刑務所を出たばかりなのに、軽い犯罪を重ねて刑務所に舞い戻ろうとする者も後を絶たない。刑務所を死に場所としたい者もいて、獄死なら病院や葬式の心配も要らないと考える。
しかし、受刑者一人当たりの年間経費は約310万円という。単身者の場合、生活保護で支給される生活・住宅扶助は地域で異なるが、年間約160万円とされる。高齢ヤクザをセーフティーネット代わりの刑務所で服役させるより生活保護を支給する方が安上がりになることは確かだ。
しかしもっと安上がりで済ますには、元暴力団組員(元暴)を堅気の会社が雇用することだ。従来、元暴の就職率は約3%にすぎないとされてきた。堅気の高齢者でも就職は難しい。元暴が就職するのは極めて難事だが、それでも安心できる社会を作るためには避けて通れない道だろう。
暴力団を中心に反社会的勢力の現況をざっと見てきたが、警察も取締りの重点をどこに置くべきか、もう少し考えた方がいい。何かというと警察は「暴力団の資金源になる恐れがある」として、暴力団中心に取締り体制を組み立ててきた。しかし、暴力団の及ぼす害は覚醒剤に突出している。国民に与える経済的損失はむしろ半グレによる特殊詐欺や強盗の方が大きいとか、意外な事実が浮上するかもしれない。そして何より半グレを規制する法制度を素早く用意することである。幸いにして今のところ、反社勢力が国民の生命を直接的に脅かしている事実はない。
暴力団は抗争を行い、上からの指示、命令があればヒットマンとして敵の幹部を襲撃し、殺人を行う。しかし、そういう彼らでも一般人や警察官を殺傷する行為を極度に忌避している。
これらの事実を踏まえるならば、暴力団という組織犯罪集団の存在を「指定」して認めるという暴対法のあり方を見直し、日本も諸外国同様、「組織犯罪集団自体が違法」という国際標準に改めていくべきではないか。
平成という時代を通じて暴対法や暴排条例が「世の中の当たり前」となり、国民は安堵しているかもしれないが、先述した刑務所暮らしに伴う社会的なコストや半グレの勃興といった不都合な真実が直視されることは少ない。
もちろん筆者は暴力団の存在を認めるべきだと言っているのではない。だが暴力団〝封じ込め〟の裏面でこうした深刻な事態が起きていることをわれわれはもっと認識する必要があるのではないか。