落とし物を拾った場合…
ちなみに、落とし物は無主物ではありません。落とし物は遺失物です。ですから、落とし物を拾っても、直ちに所有権を取得するのではなく、遺失物法に従った手続が必要です(民法240条)*2。
1980年4月25日に発生した、1億円拾得事件をご存じですか? あるトラックの運転手が、道路脇に風呂敷に包まれていた1億円を拾って警察に届け出たのですが、6カ月間(注:現行法では3カ月間)落とし主が現れなかったため、遺失物法に基づき、その所有権を取得したという事件です。
*2 【民法240条】遺失物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後3箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。(後略)
「占有する」ことにこそ価値がある
さて、このような説明を聞いて、「あれ? なんで、物を拾っただけで、所有権を取得できるの?」と、少し納得いかない読者もいるかもしれません。財産は、自分の才能と努力で手に入れるもの。働いた対価として手に入れるもの。そのように考える人からすると、物を拾うだけで、それを自分の財産にできるというのは、少し虫がいい話のような気がしませんか?
ここには、一定の価値観が横たわっています。すなわち、法が「占有(=物を所持すること)」に、一定の価値を見いだしているのです。誰の物でもなかったり、また、誰の物なのか分からないまま放っておかれたりすると、限りある資源を社会的に有効活用することができません。
この点、占有者は、興味を示してその物にアプローチしているのですから、それを効率的に利用する可能性が高いように考えられます。ですから、占有者が、それを自分の物として使いたいなぁと思っているのだとすれば、その者に所有権を与えても、それほど悪いルールとはいえません。