勝手に境界を越えてくる隣人…
同じ発想で、所有権の取得時効という制度を説明することができます。所有権の取得時効とは、他人の物であっても、所有の意思をもって、一定期間、継続的にそれを占有すると、占有している者が所有権を取得するという制度です(民法162条)*3。
たとえば、Aさん所有の土地をBさんが所有の意思をもってずっと占有しつづけていると、やがて、Bさんはその占有地の所有権を主張できるようになります。しかも、Bさんが、それが自分の土地ではない(Aさんの所有地である)と知っている(これを法律用語で「悪意」といいます)場合であっても、占有を継続すれば取得時効は成立するのです。
自分の物ではないことを分かっていながら、占有を継続していれば所有権が手に入る。なぜ、そのような制度が認められるのでしょうか? 先ほどの説明と同様です。Bさんは、継続的にその土地を有効活用していますし、場合によっては、Cさんに貸すなどして、新たな法律関係がすでに生まれているかもしれません。ですから、その状態を尊重することが、社会的に有益ですし、また、いたずらな紛争を防げることにもつながります。
他方、Aさんは、自分の土地がBさんに占有されているのに、何も文句を言わなかった以上、所有権が奪われても仕方ないとも考えられます。
ちなみに、取得時効は、お隣さんとの境界トラブルなどにも頻繁に登場します。お隣さんが境界線をはみ出して土地を占有していたけれど、そのまま放置して時間が経過すると、いつの間にか、そのお隣さんに占有部分の所有権が生じ、自分の所有権は消えてしまう─なんてこともあるのです。
取得時効を成立させないためには、「これは私の物だ!」と、占有をしている人にしっかりと主張することが大切です。
*3 【民法162条】①20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。②10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。