2024年7月1日(月)

BBC News

2024年6月28日

アメリカで11月に行われる大統領選挙に向けた1回目のテレビ討論会が27日夜(日本時間28日午前)、南部ジョージア州アトランタで開かれた。民主党のジョー・バイデン大統領と共和党のドナルド・トランプ前大統領が4年ぶりに直接議論を戦わせた。バイデン氏は声がかすれ、時に口ごもり、終了後には懸念の声が上がった。トランプ氏は攻撃的な発言を続けた。

大統領選のテレビ討論会は通例、民主・共和両党の候補者が正式に指名された後の秋ごろに開かれるが、今回は異例の早期開催となった。

会場の米CNNのスタジオに観客はなく、90分間の討論会は司会者2人と両候補者だけで進められた。候補者のマイクは、発言の順番でない時には音が切られた。

アメリカが直面する問題への政策と並んで、81歳のバイデン大統領と、78歳のトランプ前大統領が、大統領の任期4年を全うできるのかという点も注目された。現地で取材しているBBC記者らは、討論会後、バイデン氏について懸念が高まる結果となったと伝えた。

経済

討論会は、インフレ関する司会者の質問で始まった。人々が暮らしぶりを「最悪」だと感じていることをどう思うかと、バイデン氏は問われた。

大統領はすぐに質問の方向を変え、トランプ前大統領が経済を崩壊させ、失業率を上昇させて政権を去ったと主張。「私たちは元に戻さなければならなかった」とし、トランプ政権で経済状態は「最悪」「カオス」だったと述べた。

これに対しトランプ前大統領は、自らの政権で「最も偉大な経済」が続いていたと反論。「私たちは新型コロナウイルスに見舞われたが、必要な支出をし、大恐慌に陥らないようにした」とアピールした。

また、自分の政権では「すべてがうまくいっていた」と強調したうえで、バイデン氏の新型ウイルス対策と経済政策を批判した。

中絶

今回の大統領選では人工妊娠中絶が最重要問題の一つになっており、司会者はこのテーマでも質問した。

トランプ前大統領は中絶薬を禁止するのかと聞かれると、「ノー」と返答。中絶薬を使用する権利を連邦最高裁が支持したことに言及した。

また、中絶の合法性については各州で判断することが望まれているとの見解を繰り返した。

バイデン氏は、中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド」判決を連邦最高裁が覆したことを「恐ろしいこと」と批判。

州が独自に中絶を規制できるようにするという考えについても、公民権に関して「州ごとに異なるルールができる」ようなものだと反対の立場を示した。

また、中絶は女性と医師の間の問題だとし、「政治家が決定すべきではない」と主張。再選されれば、「ロー対ウェイド」判決を復活させると誓った。

トランプ前大統領が、民主党の一部には「妊娠9カ月目だろうと出生後だろうと」中絶を認めるよう求める人がいると虚偽の主張をすると、バイデン大統領は怒りをあらわにし、「そんなことはまったく事実と異なる」と言い返した。

移民

中南米からの移民が歴史的な人数に上っていることをめぐっては、トランプ前大統領と共和党のせいで超党派の国境管理強化策が不成立に終わったとバイデン氏は指摘。

「不法に国境を越えるのは現在、越境者の40%だ。(前大統領が)退任した時より良くなっている」と述べた。

前大統領は、囚人や精神病院の患者、テロリストらが国境を越えて入国していると主張。バイデン氏は、そのようなことを裏付けるデータはないと反論した。

トランプ前大統領は、自分が大統領に復帰すれば大規模な強制送還を実施すると宣言している。司会者から、何十年もアメリカに住んでいる不法移民も全員、強制送還するつもりなのかと問われると、それには直接答えず、バイデン氏の移民政策が犯罪を増加させていると強調。

「それらの人を数多く、急いで外に出さないとならない。私たちの国を破壊するからだ」と述べた。その方法については説明しなかった。

ウクライナとガザでの戦争

司会者は、ウクライナでの戦争をめぐり、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が提示している戦闘終結のための条件は受け入れられるか、両者に聞いた。

トランプ前大統領は、プーチン氏がウクライナ侵攻を決めたのは、バイデン政権がアフガニスタンから米部隊を撤退させた時に、同政権の無能ぶりを見て取ったからだと、質問には直接答えずに発言。

もし自分が大統領だったら、パレスチナ自治区ガザでの戦争も起こらなかっただろうと付け加えた。

これに対しバイデン氏は、前大統領がプーチン氏に「好きなようにしろ」と言ったと主張。

前大統領は「そんなことは一度も言っていない」と言い返した。

ガザでの戦争は、民主党支持者を二分する問題となっている。司会者はバイデン氏に、イスラム組織ハマスとイスラエルの戦争を終わらせるため、どのような影響力を行使するのか問うた。

バイデン氏は、戦争の終結を望んでいないのはハマスだけだと主張。イスラエルへの強い支持を繰り返し表明するとともに、ハマスは排除されるべきだと述べた。

トランプ前大統領はガザでの戦闘に関し、イスラエルが「仕事を終わらせる」べきだと述べた。バイデン氏については、まるでパレスチナ人のようだが「とても悪いパレスチナ人で人気がない」と攻撃した。

議会襲撃事件

2021年1月6日の連邦議会襲撃事件に話題が移ると、トランプ前大統領は自己弁護に努めた。

前大統領は、暴徒を扇動して暴力を振るわせたというバイデン氏の指摘を否定。平和的に行進するよう呼びかけたと反論した。

そして、当時のナンシー・ペロシ下院議長(民主党)と首都ワシントンのミュリエル・バウザー市長が1万人規模の州兵部隊の投入を断ったのだと主張し、それが大規模暴動につながったとの見解を述べた

バイデン氏は、当時のトランプ大統領が事件の最中「3時間」も何の行動も取らなかったと主張。当時のマイク・ペンス副大統領がトランプ氏に対応を「懇願」したと述べた。

バイデン氏はまた、トランプ氏が「(襲撃した)これらの人々をアメリカの偉大な愛国者だと言っていた」とした。

前大統領の有罪判決

バイデン氏は、トランプ前大統領が最近、ニューヨーク州の裁判所でビジネス記録改ざんの罪で34件の有罪判決を受けたことを取り上げた。

バイデン氏は「有罪判決を受けた重罪犯は(大統領経験者に)1人しかいない。私が今、見つめている人物だ」と発言した。

また、元ポルノ映画スターのストーミー・ダニエルズ氏と性的関係にあったとされることに関して、「路地裏の猫のようなモラル」の持ち主だと前大統領を批判。

これに対して前大統領は「私はポルノ・スターとセックスしていない」と主張した。

一方で前大統領は、バイデン氏の長男ハンター氏が最近、有罪判決を受けたことに言及。バイデン氏も大統領としての「ひどい」行動の責任を問われ、「退任したらすぐに」重罪人にされるべきだとした。

前大統領は、「この人は犯罪者だ」とバイデン氏について言ったあと、「私は何も悪いことはしていない」と続けた。

これに対しバイデこれに対してバイデン氏は、両者の行動を前大統領が同一視するなど「とんでもないことだ」と不快感を示した。

環境

気候危機と猛暑による壊滅的な影響もテーマになった。司会者は、もし当選したらこの問題にどう取り組むかを聞いた。

トランプ前大統領は、きれいな空気と水を望んでいると返答。「私たちはそれを手に入れた」とし、自らの政権において「史上最高の環境数値を記録した」と主張した。

バイデン氏は、アメリカがトランプ政権下でパリ協定から離脱したことを指摘した。

高齢

両候補は年齢についての質問も受けた。

バイデン氏は、再選された場合、2期目が終わる時には86歳になっていることを問われると、トランプ前大統領が「(自分より)3歳若いが能力はかなり劣る」と述べた。

そして、「実績を見てほしい。彼が残したひどい状況を、私がいかに好転させたか見てほしい」とした。

大統領2期目を務めた場合、任期満了時には82歳になるトランプ前大統領は、2種類の認知テストで「好結果を出した」とし、健康状態は良好だと強調。趣味のゴルフの話をし、「彼(バイデン氏)はゴルフをしない。50ヤード(約45メートル)もボールを飛ばせない」とした。

そして、「私は25年前、30年前と同じくらい調子がいいと感じている。実際、少し軽くなった」と述べた。

バイデン氏はゴルフが話題に出たことを受け、「私はハンディを6まで下げた」、「彼が自分でバッグを持つなら、喜んで(一緒に)ゴルフをすると言ってある」と述べた。

BBCのアンソニー・ザーカー北米担当編集委員は、多くのアメリカ人がバイデン氏の年齢と健康状態を懸念しており、この夜の討論会ではそれが払拭されなかったと説明。バイデン氏の発言は平板で、まとまりに欠け、不明瞭だったとした。

また、討論会がほぼ中盤に差し掛かったところで、バイデン陣営はバイデン氏の声がかすれ気味なことについて、風邪のせいだと記者団に説明したと報告。言い訳にも聞こえたとした。

そして、この夜をボクシングの試合に例えれば、バイデン氏は前大統領にパンチを食らわせる場面もあったものの、全体としてはロープにつかまっていることが多かったとした。

ワシントンで取材するBBCのブランドン・リヴジー記者は、米主要メディアの大半でアナリストらがこぞってバイデン氏を厳しく批評し、再選の可能性に対する懸念が高まっているとしていると伝えた。また、共和党側がバイデン氏への不安が膨らんだとしている一方、民主党関係者の多くは、少なくとも公には、バイデン氏を支持し続けると表明していると報告した。

(英語記事 Biden falters in debate as Trump goes on attack

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c72v5gnq0ego


新着記事

»もっと見る