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ケイラ・エプスティーン、BBCニュース(米アトランタの討論会場で)
ジョー・バイデン米大統領の陣営は、ドナルド・トランプ前大統領との討論会が終わったら、一気に攻勢に出るつもりでいた。
しかし実際には、むしろ追い込まれてしまった。
陣営を応援して代弁する民主党関係者たちは27日夜、討論会会場の近くに設けられた報道対応部屋の片隅で、多くの記者に取り囲まれた。報道陣は口々に、81歳のバイデン氏を大統領候補から外すべきではないのか、討論会での様子から大統領として適任なのかの懸念が前より高まったのではないかと、民主党関係者に矢継ぎ早に質問した。
カリフォルニア州のギャヴィン・ニューサム知事(56)にも、民主党は大統領以外の候補者を代わりに擁立すべきではないのか、と質問が飛んだ。
ニューサム氏は、自分は「古風」なので、バイデン氏が元気かどうか大騒ぎするより、討論会で話題になった「中身と事実」が大事だと思うと答えた。
民主党としては、討論会の後にこのような会話をするつもりはなかった。しかし、90分間の討論会でバイデン氏は元気がなく、時に口ごもり、風邪のせいで声はしわがれていた。
そのため民主党関係者はただちにパニック状態に陥り、記者団はバイデン陣営が今後どうやって立ち直るのかとひっきりなしに尋ねた。
有権者はバイデン氏の年齢を気にしており、それはこの日の討論会の重要なポイントだった。そして、討論会での大統領の様子は、決してバイデン氏を助ける材料にはならないと、熱烈なバイデン支持者たちも認めている。
バラク・オバマ元大統領の2008年選挙運動を担当した民主党の戦略家デイヴィッド・プラフ氏は、「デフコン1状態」だと話した。「デフコン1」とは、最も深刻なレベルの核戦争の脅威を意味するアメリカの軍事用語だ。
「今夜のふたりはまるで、年齢差が30歳もあるみたいに見えた」と、プラフ氏は言う。実際には4歳と離れていないのだが。「この討論会を受けて、有権者はそこに本当に悩むと思う」。
2020年の民主党予備選でバイデン氏に挑戦し、レース序盤で脱落したアンドリュー・ヤン氏は、大統領は「正しいことをすべき」で、「身を引いて、民主党全国委員会に別の候補者を選ばせる」べきだとX(旧ツイッター)に書いた。さらに、ハッシュタグ「#swapJoeout(ジョーを追い出して代わりに誰かを)」を付けた。
しかし、民主党がバイデン氏以外の誰かを党の候補に指名する可能性は低い。現職大統領で、本選までに数カ月しかない。そして、別の候補を擁立する手続きは大混乱するはずで、そうすれば11月の本選での勝率がおぼつかなくなる。
とは言うものの、「民主主義を守り、トランプを倒した後に、老人支配政治を終わらせなくてはならない。なぜそうなのか、(この討論会は)あらためて示した」。民主党に若手候補を勧誘する仕事をしているアマンダ・リトマン氏は、BBCにこう話した。
「(大統領は)ここから先、前より少し大変な思いをすると思う」。かつてオバマ氏の選挙戦を仕切ったデイヴィッド・アクセルロッド氏はCNNでこう述べた。
報道対応の部屋に戻ると、陣営関係者たちは、討論会でのバイデン氏の様子について、記者らの質問に次々と答えた。陣営側がどれほど話題を変えようとしても、話題は変わらなかった。
ロバート・ガーシア下院議員(カリフォルニア州)は記者団に、トランプ氏は「うそをつき、うそをつき、そしてまたうそをついた」と話した。
前大統領は確かに、討論会で事実と異なる発言を繰り返した。民主党が支配する州は 「出生後」の妊娠中絶を可能にしたいのだなどという、虚偽の主張がそのひとつだった(これは、人工中絶反対派が繰り返す内容)。
前大統領はさらに、バイデン氏がロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対して、ウクライナ攻撃を「促した」とも述べたが、実際にはバイデン政権はウクライナを一貫して強力に支持している。
バイデン陣営も、同様にトランプ前大統領を非難した。
「ドナルド・トランプはうそつきだ。そして犯罪者だ。だからこそ、彼は我々の大統領にはなれない」と、陣営は討論会後に声明を出した。
カマラ・ハリス副大統領も同様に、「ドナルド・トランプは何度も何度も何度もうそをついた」とCNNで述べた。
討論会の視聴パーティーに、後から登場したバイデン氏は、この点を力説した。
「彼の発言は逐一、ファクトチェックされる」、「彼が口にしたことは何ひとつ、事実ではなかった」と、大統領は集まった人たちに述べた。
「いいですか。みんなしてあの男を倒しにいく。倒さないとならない。そうするには、みなさんが必要だ。みなさんのために私は出馬しているので」
他方、トランプ陣営の支援者や関係者は討論会の後、勝ったのは共和党のリーダーだとうれしそうに記者団に宣言した。
この間、民主党側ではニューサム氏、ガーシア氏、ラファエル・ワーノック上院議員などが、バイデン氏の様子について何度も同じ質問に答えた後、長居せずにいなくなった。
「私はこれまで何人か、大統領候補の代理人を務めてきた」と、民主党のクレア・マキャスキル元上院議員はMSNBCに話した。
「代理人である以上、ポジティブな面を強調しないとならない」のだと説明したうえで、しかし今夜は「本当に正直に話す必要がある」とマキャスキル氏は述べた。
「(大統領が)今晩やるべきことは、たったひとつだった。つまり、今の年齢になっても自分は大統領の職務をこなせると、アメリカを安心させなくてはならなかった」
「今夜の大統領は、それに失敗した」
(英語記事 Democrats backed into a corner over Biden's performance)