2024年12月22日(日)

MANGAの道は世界に通ず

2022年5月26日

 「なぜ世の中から戦争が無くならないのか」

『進撃の巨人』(諫山創、講談社)

 よく問いかけられるこの疑問に、秀逸な筆致で答えてくれたのが『進撃の巨人』(諫山創、講談社)といえるだろう。無類の漫画好きで、何千作品と目を通してきた筆者であるが、個人的マイベストに君臨していた『寄生獣』(岩明均、講談社)を抜き、生涯ベストと評価する作品に躍り出たのが、この『進撃の巨人』であった。

 連載開始当初は、「巨人が人を喰らう」という衝撃的なシーンの連続で漫画界に激震を走らせたが、物語が進むにつれ、単なるショッキングなだけの作品というわけではないことが徐々に判明してくる。作り込まれた世界観や設定、世界の歴史、個々のキャラクターの想いや個性等々、非常に重厚長大な作品だったことが分かってくるのだ。

 そんな本作が教えてくれるのは、信念とは人それぞれであり、事実では人は変えられないこと、それが世の中から戦争がなくならない理由である、ということだ。

巨人がやってくる塀の外には何があるのか?

 以下、解説に当たって『重大なネタバレ』を含むため、衝撃を初見のままに味わいたい方は、ここで読み進める手を止めていただきたい次第である。

 連載開始当初に説明される設定としては、エレンたち主人公は、人間たちを喰らう謎の存在、「巨人」に常に脅かされており、その侵入を防ぐ大きな壁を築き、その壁内で日々の暮らしを営んでいるということだ。

 壁内は意外に大きな面積を誇っており、日々の暮らしを営むだけなら十分に、この中で事足りることが分かる。

 しかしある時、一番外側の壁が謎の「超大型巨人」に破壊され、人々を脅かす巨人たちが壁内に入ってきてしまった、ということがプロローグだ。

 最終的に、物語が進むにつれ……実は壁の外には、別の人類が存在し、自分たちは小さな島国に閉じ込められている、迫害された一族であったことが判明する。
ユダヤ的な世界観が存分に散りばめられている作品ともいえるのだ。

 ここで重要なのが、壁外の大多数の人類と、世界の仕組みを知った主人公たちに、それぞれ「このようにしたい」という信念が存在するということだ。

 「壁内に住む主人公たちは悪魔であり、世界から抹殺しないといけない」と考えている壁外人類。それに対抗するため、壁外を武力によって牽制しようとする主人公たち。最終的に、「自分達がいると世界が平和にならないから、我々は安楽死するべきである」と考える迫害された民の一部や、「むしろ世界中を大量虐殺(ジェノサイド)してしまい、自分たちだけ生き残ろう」という過激派まで現れ、物語は佳境を迎えていく。

 余談ではあるが、本作のクライマックスではまさに、ジェノサイドの姿が生々しく描かれている。これだけリアルに大量虐殺を描いた作品は、漫画史上初めてなのではないかと考えられ、そういう意味でも衝撃的な作品だ。


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