2023年1月28日(土)

MANGAの道は世界に通ず

2022年5月26日

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保手濱彰人 (ほてはま・あきひと)

キャラアート代表取締役会長。1984年生まれ。東京大学工学部中退。在学中に起業するなどして2014年に株式会社ダブルエル(現・キャラアート)を創業。現在は日本のポップカルチャー・コンテンツの国際展開を図ることに注力している。

絶対的に正しいことは世の中に存在しない

 そんな中で同作が強烈に我々に訴えかけてくるのは、「立場が違えばそれぞれの事情があり、絶対的に正しいことは世の中に存在しない」ということだ。これが、世の中から戦争がなくならない理由である。

 一つの事実はあれど、それをどう捉えてどのように考えるか。どのような思想(信念)に思い至るか。それらは人それぞれなのであり、常に食い違いが発生するのだ。重要なのは、お互いの持つ大切にしている価値観であり、「世界の真実を知ったところで、それだけで変えられるものではない」ということである。

 そう、正論や事実だけでは、世の中や人は変えられないのである。より重要なのは、その人自体がどのような信念を持ち合わせているのか、ということである。これを認識せず、「事実はこうなのだからこうすべき」と持論を語ったところで、相手を説得することはできない。

 必要なのは、自分が正しいと思っている内容を語ることでなく、相手が持っているその固定観念=世の中をどのように捉えているのかの認識のレンズ、を知ることである。

 この辺りは名著『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』(ターリ シャーロット 、白揚社)に非常に詳しいため、興味のわいた方にはぜひ目を通していただきたいが、つまりはこれらが、世の中から戦争がなくならない理由である。

 双方が、それぞれの立場を正しいと思い込み、持論をぶつけ合う状況が発展したのが、戦争という構造だ。

まさに本作では、「あいつらを虐殺しないと世の中から恐怖が無くならない」と考える壁外人類と、「自分たちから攻め込まないと自己防衛ができない」という壁内人類の、ジレンマ、葛藤が鮮明に描かれていくことになる。  

 現実世界でも、同じような状態が存在することを容易に想像できないだろうか? こうした構造は、人と社会が存在する以上、なくすことはできないものだ。だがわれわれは少なくとも、こうした理論を理解した上で、「相手には相手の認識の枠組みがある。自分の考えは、一方的な立場からの価値観の押し付けになっていないだろうか?」と、常に俯瞰して考え続ける(メタ認知する)ことはできる。

 よりお互いに立場を理解しようと努め、歩み寄りに励み、相互理解や融和の精神を持つことはできるのだ。これがこれからの人類に求められていることであり、崇高な精神性の表れといえるのではないだろうか。世の中、人や環境それぞれで、背景や事情があり、「絶対的に正しいことはない」ということを、重々、認識しておきたいものだ。

  
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