2024年7月1日(月)

BBC News

2024年6月28日

アンソニー・ザーカー、BBC北米特派員

27日の夜になる前から、多くのアメリカ人がジョー・バイデン大統領の年齢や大統領としての適性を心配していた。この日の討論会でその懸念は決して払拭されなかった――という言い方は、今年有数の婉曲(えんきょく)表現と言えるだろう。

大統領がこの討論会で超えるべきハードルは、かなり低く設定されていた。それでも、つまずいた。精彩を欠き、だらだら続く発言は漫然としていた。何を言いたいのか、はっきりしなかった。

討論会の中盤で、バイデン陣営は記者団に対し、大統領は風邪をひいているのだと話した。声がしわがれていることを、そう説明しようとしたのだ。しかし、たとえそうだったとしても、それは言い訳に聞こえた。

90分間の討論で、バイデン大統領は優勢に立つよりもしばしば、窮地に立たされた。特に序盤、司会者の質問に対するいくつかの回答は意味不明だった。思考回路を失った彼は、ある答えを「メディケアをついに打ち負かした」と締めくくった。

バイデン氏の元広報担当、ケイト・ベディングフィールド氏は討論会の直後にCNNに出演し、「ジョー・バイデンにとって、良い討論会ではなかった。それは紛れもないことだ」と明言した。

バイデン氏はこの討論会で何より、自分にはエネルギーとスタミナがあると立証しなくてはならなかったのに、それができなかったと、ベディングフィールド氏は指摘した。

討論が進むにつれてバイデン氏は、ロープに追い詰められたボクサーが流れを変えようと、大きくスイングするように、強い攻勢に打って出た。そのうちのいくつかは命中し、前大統領を怒らせた。

CNNの司会者が最初に取り上げた話題は、有権者が特に重視する経済と移民問題だった。世論調査によるとそのどちらも、トランプ前大統領が有権者から比較的信頼されているテーマなだけに、この展開はバイデン氏にいっそう不利に作用した。

前大統領はバイデン氏のまとまりのない発言を捉え、「彼が最後に何と言ったのか私は本当に分からない。本人も分かってるとは思えない」と皮肉を言った。このセリフが、この夜を要約していたかもしれない。

前より集中

前大統領は全体的に、規律のある明敏な対応を見せた。2020年大統領選の最初の討論会を台無しにした、相手の発言を遮る行為や好戦的な態度などは避け、バイデン氏のこれまでの仕事に対する攻撃をできる限り議論の中心にした。

トランプ氏は、事実の裏付けがない主張や、明らかな虚偽を繰り返した。だが、バイデン氏はそれについて、ほとんどトランプ氏を追い詰めることができなかった。

例えば、話題が人工妊娠中絶に移った時には、前大統領は繰り返し、彼の言う「民主党の過激主義」に焦点を当てた。そして、赤ちゃんが生まれた後の中絶を民主党は支持していると、事実と異なる主張をした。

中絶は、憲法でその権利が保護されているとした「ロー対ウェイド」判決が2022年に連邦最高裁で覆されて以来、トランプ氏と共和党全般にとっての弱点となってきた問題だ。しかし、得点できるはずの分野でバイデン氏の攻撃は、失敗に終わった。

大統領が口にしたのは、「あなたがしたのは、ひどいことだ」という言葉だった。

追い詰められたファイター

カマラ・ハリス副大統領は討論会が終了した直後、大統領が「スロースタート」を切ったと認めたが、最後は力強さを示したと述べた。これは、かなり楽観的な印象を与えることを狙った発言だが、討論が進むにつれ、バイデン氏が落ち着きを取り戻したのは事実だ。

バイデン氏は、トランプ氏が成人映画スターのストーミー・ダニエルズ氏と男女関係をもったとされることに絡んで有罪判決を受けたことに触れ、トランプ氏を「路地裏の猫のモラル」をもつ人物だと評した。

これに対してトランプ氏は、「私はポルノスターとセックスしていない」と言い返した。

トランプ氏はまた、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件での対応がテーマになった時も、守勢に回ったように見えた。彼は当初、自らの責任についての質問を、バイデン氏に対する非難に変えようとした。だが、この時は大統領がトランプ氏を逃がさなかった。

「彼は人々に連邦議会へ行くよう勧めた。側近たちが対処を懇願するなか、3時間そこにじっと座っていた」、「彼は何もしなかった」とバイデン氏は言った。

前大統領はまた、2024年大統領選の結果を受け入れるかどうかについても、何度も答えをはぐらかし、質問をかわそうとした。

次はどうなる

今回の討論会は、バイデン陣営が望んだこともあって、近代で最も早い時期に開催された。理由の一つは、選挙戦の早い段階で焦点をトランプ氏に移そうと狙ったことにある。トランプ政権がいかに混乱していたか、有権者が思い出すことを期待してのことだった。

しかし、この夜の討論会の後は、前大統領よりもバイデン氏の様子を話題にする人が多くなるだろう。

バイデン陣営が早めの討論会を望んだもう一つの理由は、もし討論での様子がふるわなくても、そこから立ち直る時間を多く取れるからだろう。結果的には、そのことが陣営にとっては一息つく材料になるかもしれない。

民主党は8月に党大会を控えている。その時に、バイデン政権2期目について、より台本に沿ったビジョンを国民に提示することになるだろう。9月には2回目の討論会が予定されている。もし開催されれば、11月に投票所に向かう国民の心に、より新鮮な印象を与えることになるだろう。

しかし、2度目の討論会でトランプ氏と向き合った結果、今回と違った結果になるのか、多くの民主党員は首をかしげているかもしれない。現時点でどうやったら別の大統領候補を擁立できるか、考えている人もいるだろう。

バイデン陣営は、事態を沈静化させるのに2カ月ほどの時間がある。予備選で十分な選挙人を獲得し、党指名を確実にしている候補者を民主党が見捨てるには、公然とした党内反乱が必要になる。少なくともこれまでのところ、民主党の有力者の中で結束を乱した人はいない。ただ、ジャーナリストとの匿名の会話で警鐘を鳴らした関係者もいるとされる。

クエンティン・フルクス副選対本部長は、民主党大会で他の人々を候補に出したり、バイデン氏に代わる人物を指名したりする可能性についてBBCから問われると、「回答することでそれに重みを与えることはしない」と述べ、こう続けた。

「バイデン大統領は民主党の候補者になるし、バイデン大統領はこの選挙に勝つ」

もしもバイデン陣営が今後数日で党内の支持を結集させられるなら、確かにフルクス氏の言う最初の部分はそうなるのかもしれない。つまり、バイデン氏は民主党の指名候補になると。政治家というのは厳しい逆境に直面しても、それを乗り越えられるものだ。それは、トランプ氏が証明している。

しかし、今夜の討論会を経て多くの民主党員は、バイデン氏が11月にどうなるのか、今後の見通しに深刻な疑念を抱くかもしれない。

(英語記事 Stumbling debate performance worsens age fears for Biden

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cz9x6e72vkwo


新着記事

»もっと見る