バイデン氏に最も影響を及ぼす人物
現時点では、民主党内に具体的な行動はないのだが、バイデン撤退のシナリオについても考えてみよう。
バイデン大統領に最も影響を与える人物は、バイデン氏を支えてきたジル夫人である。日本では、あまり語られていないが、バイデン大統領が24年米大統領選挙に出馬宣言をした約3分4秒の動画の中で、ハリス副大統領が13回も登場した。しかも、ハリス氏とジル夫人が抱き合う場面がある。その場面には、あるメッセージが込められていた。
前回の大統領選挙でバイデン副大統領が、副大統領にハリス上院議員(共に当時)を選択したとき、反対したのがジル夫人だといわれている。ジル夫人は、夫のバイデン氏に「ハリスはあなたを裏切る」と忠告し、ハリス氏の忠誠心を問題視したという。この話は、米有力紙の1つにも掲載された。
バイデン陣営は、今回の出馬宣言をした動画を通じてハリス氏とジル夫人は一体化して、問題は存在しないというメッセージを意図的に送ったのだ。
仮に、バイデン大統領が選挙戦から撤退した場合、バイデン氏はハリス副大統領を支持する可能性が高い。現職の大学教授でもあるジル夫人は、バイデン大統領と共に教育改革の実現を強く望んでいる。現在の12年の公教育に加えて、「2.6・3・3・2」の16年の義務教育を実施して、2年間の幼児教育と短大の教育を無償化する夢を抱いている。
現在も共和党からの反対で潰されているこの法案だが、選挙戦から撤退すれば、2人の計画は儚い夢に終わってしまう。
ハリス氏の副大統領任命を受け入れたように、もしバイデン大統領が撤退を望んだ場合、ジル夫人が夫の意思を尊重するのかに注目だ。
バイデン撤退の可能性はあるのか?
現在のところ、バイデン大統領は選挙を継続していく意思を持っているが、もし諸事情が重なって、選挙戦からの撤退を余儀なくされた場合、大統領選挙はリセットされる。
ポイントは、バイデン大統領が8月19日から22日までシカゴで行われる民主党全国大会で、まだ正式に指名を受けていないことである。この点は、バイデン撤退の可能性を議論する際、重要な点になる。
バイデン大統領には、まだ時間的にも制度的にも撤退が可能であるということである(7月3日時点)。
仮にバイデン大統領が撤退を発表する場合、7月15日から18日まで中西部ミネソタ州ミルウォーキーで開催される共和党全国大会が終了した後にある公算が大きい。まず、バイデン大統領は撤退表明を行い、次に民主党予備選挙で獲得した全体の99%に当たる3894人の代議員を放棄すると宣言する。その後、民主党全国大会で代議員による自由投票によって、候補者が過半数を獲得するまで、指名争いが行われるという「オープン・コンベンション」になる。
もし、バイデン大統領が全国党大会での指名後に撤退を発表すると、チャック・シューマー上院院内総務やハキーン・ジェフリーズ下院院内総務等、党幹部が大統領候補を選ぶことになる。これならば、オープン・コンベンションになった場合に懸念されている「混乱」や「対立」を回避できる。
ただし、党幹部で指名候補を決定するのは民主党が「閉鎖的な党」や「密室政治」という悪いイメージを有権者に与えることに成りかねない。「イスラエル-ガザ戦争」でバイデン大統領から離れた若者が、バイデン氏支持に戻る確率をかなり下げることになるとみてよい。
従って、全国党大会で正式に大統領候補と副大統領候補を、代議員による投票で決定するのが望ましいのだが、その場合、バイデン政権でホワイトハウスの報道官を務めたジェン・サキ氏のような民主党関係者や、米紙ワシントン・ポストのベテラン記者ダン・バルツ氏は、オープン・コンベンションになった場合の混乱と分裂を警告する。従って、党内の「統一」を訴える人物が不可欠だ。